スパイですが標的の御曹司に求婚されています

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 パーティー会場を出てフロントへ向かうと、慣れた様子で颯真はコンシェルジュに言った。 「バーを利用したいんだけど」 「かしこまりました」  すぐさまエレベーターホールへと案内される。  コンシェルジュが到着したエレベーターの扉を押さえ、「いってらっしゃいませ」と礼をした。 「さあ、行こう」  颯真に促され、すみれはエレーベータに乗り込む。すかさず三十一階のボタンが押された。高速エレベーターはあっという間に目的の階へ到着する。  エレベーターを下りると、コンクリートの壁が一面に広がっていた。どうしたことか、入り口がどこにも見当たらない。 「そこが入り口。隠れ家風になってて」 「は、はあ」  戸惑うすみれをエスコートして、颯真は壁の一部を手前に引いた。どうやら隠し扉のようである。  まるで忍者屋敷だ、とすみれは思う。  ところが、一歩足を踏み入れた扉の中は、圧倒的な緑の世界。薄暗い照明の中、大小様々な観葉植物がたっぷり配置されている。大人のジャングルといった感じの、落ち着いたボタニカルバーだった。 「秦様、いらっしゃいませ」  常連客である颯真を、バーテンダーがいつものようにカウンター席へ案内しようとする。 「今夜はテーブル席をお願いします」  しかし颯真は、ライトアップされた東京タワーが見える窓際の席を選んだ。 「佐藤さんは、なににしますか?」  席につくやいなや、颯真がメニューを広げる。 「秦さんはなにを飲まれるんですか?」 「僕はいつもハイボールを」 「じゃあ、私も」  すぐさま颯真はスマートにオーダーした。  卒がない。遊び慣れている気がする。すみれは颯真の一挙一動を勘ぐった。 「佐藤さんって、どこかのご令嬢なんですか? 身につけているものがハイブランドだし、そもそもプレミアム婚活パーティーですから」 「見栄を張った姿を見られて、お恥ずかしい限りです。全部借り物です。今夜は、知り合いの紹介で参加させてもらいました。こちらでならハイスペックな男性とお知り合いになれそうかなと。駐妻に憧れていまして」  シナリオどおりの台詞を、すみれは平然と言ってのける。
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