Blue Eye Leucistic Complex

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「あなたはBEL(ベル)コンプレックスなのよ」 卵巣から飛び立った時、血液の流れに乗って届いた言葉。そうか、自分はBELの可能性を秘めたモルフなんだ。これから出会う遺伝子次第で、スーパー体になれるんだ。 やわらかな卵管を進みながら、自分の様子を感じてみた。黒に黄色い模様、普通のルッソだ。BELの要素はどこにもない。BELとは、Blue Eye Leucistic(ブルーアイリューシスティック)の略称で、黒い色素を生み出す量が少ない個体。もし、BELコンプレックスの遺伝子と出会うことができれば、4分の1の確率でBELスーパー体になれる。スーパー体とは、共優性遺伝子に含まれる対立遺伝子が、ホモ結合した時に得られる顕著に変化した個体のことだ。BELコンプレックスのスーパー体は全身が白化し、目が青くなる。それでBlue Eye Leucisticと呼ばれる。 子宮に近づいていくと、ざわざわと何か多くのモノがうごめく音がした。子宮の手前でたじろいだ。3億個ほどの遺伝子が、自分の到着を待ち構えている。グルグルとお互いねじれ合いながら、子宮を這いずり回っている。この中に飛び込むべきか?いや、まずは遺伝情報を手に入れなければ…。卵管まで忍び込んでこようとする遺伝子をスキャンした。パステルクラウン…BLEコンプレックスじゃない!進べきか、退くべきか。 パステルルッソhet(ヘテロ)クラウン、クラウンルッソhetパステル、ノーマルのうち、どれかになる。BELにはなれない。これも自分の運命なのか。考えているうちに自分はどんどん子宮に引き寄せられていった。そして、遺伝子たちに取り囲まれてしまった。もう逃げられない、体内に侵入してくる遺伝子に染色されていく… 「きみたちはBELコンプレックスなんだよ」 精巣を飛び出した仲間たちに、血液の流れに乗って浴びせかけられた言葉。そうか、自分たちはBELの可能性を秘めたモルフなんだ。これから出会う遺伝子次第で、BELスーパー体になれるんだ。 仲間たちと競い合って子宮めがけて泳いでいった。周りを見てもアイボリーブラックに黄褐色の模様、普通のモハベだ。BELの要素はどこにもない。果たして、子宮にはどの遺伝子が待っているのか。そして自分がこの競争に勝って、子宮の遺伝子と結合できるのだろうか。まったく自信がなかった。 子宮に入ると、先に到着していた仲間たちがひしめき合っていた。まだ、相手の遺伝子は到着していないようだ。子宮壁から遺伝子情報をスキャンした。デザートゴーストだ!BELコンプレックスじゃない!このまま待っていてもBELにはなれない、戻るべきか。しかし、デザートゴーストモハベになれるのは、なかなか魅力的だ。そうこうしているうちに、相手の遺伝子が子宮にやってきた。先に着いていた仲間たちは、争うように遺伝子に吸い付いていった。相手の遺伝子は仲間たちに包まれて見えなくなった。 「運命の二人が出会うんだよ、バターくん」 何か期待されているみたいだ。キャラメルブラウンに黄色い模様の自分がバターというモルフってことも、今はじめて聞いた。自分は生まれた時から、この複雑な体つきの生物に育てられてきたし、自分が何者かよくわからない。最近は、ちょっと寒い部屋にいて食事も少なかった。自分に何かさせようとしていることは、なんとなくわかった。そして今日ここに移され、同じようなキャラメルブラウンにグレーの模様のあるレッサーというモルフと一緒に過ごすことになった。これから、どうなるんだろうか。もしかして、レッサーの餌にされたのか?いや、レッサーに自分を食べようという気はないらしい。 ずいぶん長い間、お互いのにおいを確認し合った。何か、今まで感じたことのない、甘やかないい匂いがした。レッサーが自分のほうに体を摺り寄せてくると、その甘やかな匂いが一層強く感じられた。なんだろう、これは。おいしそうなにおいとは違う、心が浮き立つような匂いだった。こうして自分たちが過ごしている間、食事はしなかった。というより、食事することも忘れてお互いのにおいを確かめ合っていた。 どのくらい経ったかわからないが、ある時レッサーがあおむけに寝そべった。レッサーに何かを促されているのがわかった。そうか! バターはレッサーの体内へ侵入を試みた。 「BELコンプレックスたち」 バター遺伝子の自分はレッサーの子宮を目指して泳ぎ出した。BELスーパー体の可能性を秘めた、運命の出会いが待っている。レッサーの遺伝子と結合すれば4分の1がBELスーパー体になれる。3億個の遺伝子が追い越し追い越され、くんずほぐれつ進んでいる。レッサーの遺伝子はいくつ下りてくるのだろうか。多くても8個くらいか。厳しい生存競争には違いない。 ひとつ目のレッサーの遺伝子がやってきたと思ったら、瞬く間に先行していた仲間たちに取り囲まれてしまった。他の仲間たちは、そのまま子宮内を泳ぎ回っていた。しばらくして、またひとつ遺伝子が下りてきた。子宮の入り口付近の仲間がすぐに飛びついて、レッサーの遺伝子に侵入を始めた。次の遺伝子に近づいてみたが、他の仲間が先に侵入を果たしてしまった。4つ目の遺伝子は今までのと比べると少し小さかった。仲間が侵入しようとしていたが、うまくいかなくて周りをぐるぐる回っていた。その隙に、自分が侵入を試みると、すんなりとレッサーの遺伝子と結合できた。 レッサー遺伝子と結合したとたん、自分の遺伝子情報がグルグルと書き換えられていくのが分かった。自分という存在がかき消されて、バターレッサーという新しい遺伝子になっていく。そしてこれは、まぎれもなくBELスーパー体が形成された証だ。自分とレッサーの運命の結合体は、半年後に全身真っ白で青い目のモルフに生まれ変わるんだ。
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