惚れ薬

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「おーっす」  いた。滝野(たきの)だ。声を聞いただけでわかる。  友達に挨拶して、何かを話している。会話まではよく聞こえないのが悔しい。どうせ話しているのは、昨日のアニメのこととかだと思う。アイツ、ガキだから。  小学校への通学途中。私の目はすぐに滝野を見つけてしまう。  でも、滝野はこっちを見ていないから私のことなんか気付いていないと思う。  私が滝野以外の男子を見てもモブみたいにしか認識していないみたいに、滝野の目にもそんな風に映っているんだ。きっと。 ◇ 「教科書、見してくんねぇ?」  授業が始まってすぐ、ひそひそ声で隣の席の滝野が言った。  そう。今、奇跡的に私と滝野は隣の席なのだ。  一瞬、私に向かって話し掛けてるなんて気付かなかった。 「なあ、なあ。石塚(いしづか)」  だけど、滝野は私の名前を呼んだ。 「忘れたの?」  私もひそひそ声で返す。 「机の上に用意したんだけど、鞄に入れるの忘れた」 「……バカじゃないの」  言ってしまってから、しまった! と思った。 「バカって言った方がバカなんですー」 「はぁ」  私が口元をつり上げてしまったときだった。 「おーい、そこ静かに。授業、始まってるぞ」  先生に声を掛けられて、私たちは黙った。クラス中からくすくす笑いが起きる。 「ちょっと、滝野のせいで恥かいたでしょ」 「お前のせいだろ」 「教科書忘れたのはそっちのくせに」  先生が咳払いする。  それで、私たちは今度こそ黙った。  私は無言で滝野の方に教科書を寄せる。 「サンキュ」  今度は本当に私にしか聞こえないような小さな声で滝野が言った。  本当に自分が嫌になる。好きなのに、いつもひどい言葉ばかり掛けてしまう。ひどいことばかり言うのは滝野もなんだけど。だけど、滝野が本当はそんなに悪いやつじゃないんだって、私は知っている。  別の学年の時にも滝野とは同じクラスになったことがあった。クラス分けがあったばかりで、私はたまたま仲のいい子がクラスにいなかった。それなのに、すぐに遠足なんかあってグループ分けでどこにも入れなくて、私は困っていた。去年なら仲のいい子がいて、パッと一緒になれたのにって泣きそうだった私に、近くにいた滝野は気付いてくれた。そして、 『なあ、俺の班、入る? 女子、一人足りないんだ』  話し掛けてくれたのだった。どこに行けばいいかわからなかった私は、すぐに頷いた。  あの時から、私は滝野が気になるようになってしまった。あの時はすごく優しい男の子だと思ったから。  だけど、それから私はなぜか滝野とは、さっきの教科書の時みたいに悪態を付き合ってばかりだ。話し掛けてくれるのは嬉しいけど、複雑だ。  滝野は先生の話を聞きながら、私の教科書を見ている。ちょっぴり近くてどきどきする。私ばっかりこんな気持ちになっているのは、なんだか悔しい。  だから、今日こそは……!
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