霧の中

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コンコン ノックと同時にスライドドアが開いた 「花恋っ」 現れたのは泣き出しそうな顔をした向日葵さんとお兄さんだった 「え、向日葵さん?」 今日怪我をして入院したのに もうお見舞い? 呑気な私に近付いた向日葵さんは 「花恋っ」 ギプスの腕にそっと触れて泣きだした 「心臓が止まると思ったんだからぁ」 いつもの向日葵さんなら抱きついてきそうだけど 我慢しているあたり私は相当痛々しいようだ 「向日葵ほら、花恋ちゃんが困ってる」 お兄さんが涙を拭いながら宥めても向日葵さんは頭を振っている 「だってぇ」 「ごめんね花恋ちゃん。実はたまたま橘病院に来てた時に見かけてね」 お兄さんは私が運ばれた時に遭遇したらしい 「ご心配をおかけしました」 「心配かけなさいよっ友達なんだからっ」 口調は乱暴だけど向日葵さんの優しさは伝わる 「フフ、そうですね」 「花恋がいない間寂しいけど 我慢してあげるから早く良くなってね」 「はい」 「こら、向日葵は変なマウント取るんじゃないよ」 二人の会話をお兄さんが遮った 「え、そんなつもりないんだけど どこがマウント取ってた?」 鳩豆顔でお兄さんに詰め寄る向日葵さんは可愛い 「“我慢してあげる”ってとこ」 「え〜、全然マウントじゃないよ? 花恋がいないとお喋りする友達もいないから 学校にいる間口を開かないと思うの それを我慢するって言ってるんだから それはもう“あげる”で合ってるよね?」 最後は私に確認を取るあたり 向日葵さんの言葉に嫌味なところはない 「お兄さん、心配無用ですよ 向日葵さんのことは分かってるので」 「そう?ごめんね花恋ちゃん 本当に妹と仲良くしてくれてありがとう」 「こちらこそです」 「いや〜んもぉ可愛い花恋」 「向日葵さんの方が全然可愛いですよ」 「可愛いのに可哀想だから 写真に撮っておくわ」 「向日葵さん突っ込みどころ満載ですよ」 「え?どこが?ほら、花恋 はい、チーズ」 スマホのインカメラで頬を寄せた向日葵さんとのツーショットに驚く 「ほんとミイラですね」 「可愛い可哀想花恋ね」 「変な三段落ちみたいですね」 ケラケラと二人で笑い合ったところで 大事なことを思い出した
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