泥棒たちは富豪の家で金庫を開ける

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「あら、そう。それじゃあさっそく、その洞察力を活かして金庫を見つけてくれる?」  約五分前、二人はこの豪邸の中へ侵入した。入ったのではなく、侵入だった。黒ずくめの格好からしても明らかなように、二人は侵入者だった。豪邸からすれば、招かざる客というわけである。  狙いは、金庫だった。情報屋の大熊(おおくま)によると、この家のどこかに大型の金庫があるとのことだった。情報は、それだけ。金庫はあるが、その中身のことまではわからない。大熊は金庫を持っている民間人の家を特定するだけで、それ以上の情報は持っていなかった。おそらく、金庫を販売する企業から情報を横流ししてもらっているのだろう。 「さあ、金庫がどこにあるか、早く見つけてちょうだい」  及川は溜め息を吐いた。よく溜め息を吐くのが、この男の癖だった。頑固で偏屈で、おまけに気が弱くて悲観的。いつも自分の小説が売れないと嘆き、その度に溜め息を吐いていた。  早苗の言葉にせっつかれるように、及川はペンライトを揺らした。あたりをくまなく照らす。壁には大きな窓があり、豪華なカーテンが吊るされていた。暖炉の上には立派な額縁つきの鏡があり、部屋の隅にはテーブルもある。オーク材を使用したそれは、装飾の施された重厚なもので、イギリス製のアンティーク品のようだった。  しかし、及川は室内をひととおり眺めると、首を左右に振った。「ここは食堂ですよ。金庫はありません」 「じゃあ、どこにあるの?」 「二階に行ってみましょう。きっと、金庫は寝室にありますよ」  二人は狭い階段をのぼり、二階へあがった。緑のカーペットが敷かれた階段をのぼると、廊下は二方向にわかれていた。部屋がいくつもあったため、二人は手分けして金庫を探すことにした。早苗は廊下を歩きながら、めぼしい部屋はないかと見て回った。浴室があり、畳の和室があり、それからソファの置かれた客間を見つけた。客間に入ってすぐ右にある壁を照らすと、いきなりモナ・リザの複製画と目が合い、早苗は思わず声をあげそうになった。モナ・リザは闇のなかで不気味に微笑んでいた。 「なにしてるんですか」  いきなり後ろから声をかけられ、さらに早苗は声をあげそうになった。振り返ると、ドアから半分だけ身体を出した及川が、ペンライトで早苗のことを照らしていた。 「ちょっと、おどかさないでよ」思わず、強い口調で言ってしまう。 「べつに、おどかしてないですよ。壁のほうを向いてじっとしてるんで、不気味に思ったんですよ」  そう言って、及川が壁を照らした。闇から浮かび上がったモナ・リザを見て、及川も「うっ」と声を出す。 「世界的な名画も、暗がりのなかで見ると気味が悪いですね」 「彼女だって、そう言われるために絵の中に幽閉されたわけじゃないわよ」 「この人はいったい何者なんですか? モデルとかいるんですか?」及川が子供じみた好奇心をにじませる。
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