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今、私の目の前には涙を浮かべたたくさんの顔がある。
端正な顔をクシャりとゆがめ、私のために泣いてくれている。
「ありがとうね、みんな。だけど悲しまないで、私はただ森に帰るだけ。みんなの周りにあるこの木々たちの中で、私はいつまでも生きているわ」
「お母さま……」
「エレナ……」
長女のエレナが私の手をぎゅっと握ってくれた。
彼女もいつの間にか三千歳を超えた立派なエルフになった。
私も年を取って、気が付けは五千七百歳だ。
色々な記憶がぼやけていく中で、あの日のことは今でも鮮明に覚えている。
モニターに激突して、目の前が真っ暗になって、目を覚ますと私はエルフの赤子に転生していた。
訳も分からず泣きわめく日々だったが、両親はそんな私を愛情で包んでくれた。
そうして五千七百年。私はこの森と共に生きてきたのだ。
「お母さま、どんな一生でしたか?」
エレナの問いかけに、私は迷うことなくこう答えた。
「穏やかでありふれた一生だったわね……。概ね幸せだったわ」
唯一の心残りは、あいちゃんに謝れなかったこと。
それだけがすこし……残……ね……ん……。
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