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「婚約破棄を宣言する」
彼氏が妹の肩を抱いて現れた。
「あー、はぁ」
婚約破棄?
うん、まぁ、付き合って半年。結婚したいねー。そうだねーみたいな話を一番盛り上がっている時にしたような気もするけれど。
いつからそれが婚約になったのか?
それとも……あれかな。
妹が単に「婚約破棄」っていう単語が気に入っていて「お姉ちゃんと婚約破棄をなんたらかんたら」って散々彼に言って洗脳されたのかしら?
ぼんやりと考えていたら、何を勘違いしたのか彼……いや、元カレ?が言葉を続ける。
「知っているんだよ。君が妹に対して様々な酷いことをしていたのは」
いや、はぁ。
妹のほうが酷いんだけど。とりあえず姉の婚約者だと思っている人に手を出した時点で最悪でしょ。
冷静に考えて、最悪でしょ。
ま、いいや。ここ1か月は別れようかなぁなんてうっすっら思っていたところだから。
言い出す手間が省けてちょうどよかった。
「はい、わかりました。妹と付き合うんですね。お幸せに」
――なれるかしらね?
妹は、相当な「メンヘラ」ですけど。
「ちょっと待て」
手を振って立ち去ろうとする私を元カレが引き留めた。
なんだよ。
「酷いことをしていたのは認めるのか?例えば、柚芽ちゃんがせっかく作った料理をこんなもの食べられないと突き返したり」
はいはい。しますよ。します。
だから、妹はお花畑でメンヘラなんだから。人の話は聞かないし、いつも自分のことばかりだし。
後日談
「あのね、柚芽ね、今日はクッキーを焼いてきたの」
「うわぁーありがとう……柚芽ちゃん、これ、何が入ってるの?」
「えっとね、これは林檎で、こっちがチョコよ、さあ食べて」
「美味しそうだね。いただきます」
元カレがクッキーを食べた。
「!」
アレルギー反応が出た。
「ご、ごめん、これは食べられない」
「え?そんな、酷い。柚芽が作ったクッキーが食べられないっていうの?そんなにひどい味?」
「いや、そうじゃなくて、ちょっとアレルギーが」
元カレが腕に現れた赤い発疹を柚芽に見せる。
「酷い、アレルギーって、見ただけでもぞっとしてぶつぶつが出るっていうこと?柚芽の作ったクッキーそんな、もう見たくもないくらいまずかったっていうの?」
「い、いや違うよ……そうじゃなくて」
「だって、食べたのリンゴのクッキーだよ?林檎アレルギーなんて聞いたことないよ」
「いや、確かに林檎にはアレルギーはないけど」
「それに、柚芽知ってるもん。前一緒にケーキ食べに行ったよね?普通に食べてたよね?小麦粉とか卵とかアレルギーがあったら食べられないでしょ?アレルギーだって嘘ついてまで食べたくないんだ……」
ホロホロと涙を流し始める柚芽。
「ごめんね……私がお菓子作りが下手なばかりに……もう、嫌いになったよね?」
「い、いや、そんなことない、あ、た、食べるよ、食べるっ」
元カレが慌ててクッキーを口に含んだ。
そのころ柚芽の姉。
「うわぁー、またか……」
ちらかった台所で呆然と立ち尽くす。
「昔っからずっとそうだ。柚芽は手作りお菓子を渡す自分が大好きなんだよなぁ……」
それだけならいい。それだけなら。よくある乙女の姿だ。
だが、柚芽は始末が悪い。
とにかく、作ったあとのかたずけは一切しない。
乾燥したクッキー生地のこべりついたボウルも泡だて器。
粉まみれになったテーブルに流し。何をこぼしたのかガスレンジには薄白い液体。
ガスの噴き出し口をふさいでいるように見える。分解して洗わないといけない。
バターを溶かした器に、スプーン、リンゴを切った切れ端は床にも散乱。
「ちゃんと片付けなさい!片付けられないならもう作るな!」
と、何度も柚芽を注意した。
が、何故か返ってくる言葉は、片づけをしない自分をこれっぽっちも反省していないものばかりだ。
「酷い、お姉ちゃん、私がお菓子作るのが好きだって知ってるのに、お菓子作りを禁止するのね?何でそんな酷いことを言うの?」
「だから、片づけをちゃんとしなさいって言っているだけでしょ!」
「嘘よ、嘘。だって、ママは脱いだ服は片付けなさいっていうけど、片付けられないなら服を着るななんて言わないよっ」
「あったりまえでしょう……。服は着ないわけにはいかないんだから……」
目に涙をいっぱい貯めた由芽が叫ぶ。
「お姉ちゃんの意地悪っ。柚芽のこと嫌いなんだっ」
あーんと鳴きながら、台所を逃走。部屋に引きこもる。
……で、片付けは?
結局、やらないんだよね。毎回毎回。
加害者のくせに被害者ぶる。
それが柚芽という人間。
たちが悪いのは、加害者のくせして、被害者ぶって周りに言いふらす。そして、なぜか、それを信じる男どもがいるってこと。
可愛いって得だね。
っていうか、可愛けりゃなんでも許しちゃうのかな?男ってバカだわ。
柚芽の散らかしたものを一つずつ片付けていく。
小麦粉に、なにこれ?
白い粉にまじって、灰色の粉が散らばっている。
「そば粉?蒟蒻粉?」
ああ、そういえば、元カレはそば粉アレルギーがあったなぁ。
「まさか、柚芽……」
はは。まさかね。
さすがにアレルギーがあるものを無理やり食べさせるような鬼畜じゃないよね。
というか、本人が断れば済むことか。
>少量でも発症し、重症になりやすい「そばアレルギー」
>具体的な症状には喘息発作、くしゃみ、じんましん、嘔吐、下痢などがあり、
>重篤化するとアナフィラキシーショックを引き起こすことも少なくありませ
>ん。(CAN EAT より引用)
◆
「うわぁー、お姉ちゃん鞄買ったの?柚芽も欲しかったやつだぁ、いいなぁ」
やばい。
また始まった。柚芽のいいなぁが。
生まれた時からずっとだ。
小さい頃は「ちょっと貸してあげなさい」と、親が私の手からおもちゃを取り上げる。
「いやっ!」
ある時、思い切って親に言ってみた。
帰って来た言葉は「お姉ちゃんでしょ!」だった。
うーん、久しぶりに思い出したわ。
まぁでも、親も流石に妹の欲しがりは異常じゃないかと気が付いてからは、なるべく同じものを2つ買うようになった。
そして「いつも我慢させちゃってごめんね」と、こそっとお菓子をもらったこともある。
親もなぁ、妹には困り果てていたのだと思う。お姉ちゃんでしょ!って言葉にはひどく理不尽さも感じたけれど。
それでも、大人になってからは、親も大変だったんだろうと……。
たぶんあれよ。
元カレが、柚芽のことで何か言ってきたら「彼氏でしょ!」って言っちゃうと思う。
というか、私は言う権利があると思うんだ。
「ねぇ、貸してお姉ちゃん」
やっぱりか。
いいなぁからの、貸して。欲しい、ちょうだいじゃないだけマシなのか?
一応、返っては来る。
ただし、無事とはいいがたい姿の場合もある。
「ダメ。まだ私も使ってないんだから」
「え?なんでぇ?」
なんでって、説明聞こえてないのかな?理由も言いましたよね?
それとも、私が使っていないから貸せないのは何故と聞いています?
「私が、私の働いたお金で自分が使うために買ったの。まだ目的を果たしてないのだから、柚芽には貸せない。私が使った後なら、貸してあげる」
と、丁寧に説明する。
「やった、貸してくれるの?ありがとうお姉ちゃんっ!大好き」
柚芽がニコニコと嬉しそうに笑った。
「そうだ、柚芽も、今度新しい鞄買ったらお姉ちゃんに貸してあげるね!」
なんだかんだと、柚芽も欲しがるだけを卒業はしているんだけれど。それでもやっぱりたちは悪い。
翌日。
「お姉ちゃん、昨日鞄使ったでしょ?今日は柚芽に貸して!」
「は?無理だよ。1日使っただけで使ったうちに入らないって。来月までは貸せない」
柚芽がふくれっ面をする。
今日は日曜日だが、どこかへ出かけるつもりなのだろうか。綺麗な桃色のワンピースを着ている。
「えー、なんで?お姉ちゃん、昨日は貸してくれるって言ったのに、嘘ついたの?今日はその鞄を使うつもりで服を選んでメイクもしたのに……酷いよ」
いや、どうして1回使ったら使ったことになるんだろう。そもそも私に借りられるか先に確認するよね。
私が今日も使う可能性を考えてないの?
「……わかった。じゃぁ、やっぱり貸さない。この鞄は私のものだもの。私が働いて自分用に買った鞄。柚芽が貸してほしいっていうから仕方なく、少し使った後ならいいかなって思ったけれど、もう絶対貸さない」
柚芽が泣きだした。
「酷いよ、お姉ちゃん。貸してくれるって言ったのに、なんでそんな意地悪言うの?お姉ちゃんにも柚芽の鞄貸してあげるのに、お姉ちゃんは私に貸してくれないの?」
酷い酷いと言いながらぽろぽろと泣き続ける柚芽にめんどくさくなって、適当に着替えて、鞄をつかんで家を出る。
さすがに目の前に鞄が無ければ諦めるだろう。
「ごめんね……遅れて……」
泣きはらした目で、柚芽は彼氏(姉の自称元婚約者)の前に姿を現す。
「どうしたの?柚芽ちゃん、何があったの?」
「うん、大丈夫……」
柚芽は、泣きはらした目でニコリと笑って彼氏の顔を見た。
「僕には言えないこと?」
「ちょっと、鞄が……ううん、何でもないの。本当に遅れてごめんね」
「鞄?」
結局柚芽は、姉から鞄を借りることを諦めて、いつも使っている鞄を持って来た。
「うん、あ、そんなにじっくり見ないで恥ずかしいよ。本当は、新しい鞄にするつもりだったの。鞄に合わせて服を選んだから……この鞄じゃ、合わないでしょ……」
彼氏はそんなことないよと言う言葉を口にできなかった。
桃色のワンピースに、大学の講義を受けに行くときに持って行くような大きな黒のリュックはアンバランスだと思ったからだ。
「新しい鞄はどうしたの?」
柚芽は悪気もなく答えた。
「お姉ちゃんがもって行ってしまったの……」
「え?柚芽ちゃんの鞄を?」
「2人で使うって約束した鞄だから、私の鞄っていうわけじゃないけれど……それでも、お姉ちゃんが昨日使ったから、今日は柚芽が使えるはずだったんだけど……」
「なんだよ、それ。二人の鞄なのに、柚芽ちゃんには使わせないって」
彼氏が怒りに顔を赤めた。
「本当に、酷いやつだな。付き合っている時はそこまで妹に対して色々ひどい仕打ちをしているとは思わなかった。婚約破棄して正解だよ」
「わ、私も……明日貸してって昨日言えばよかったんだよ……」
そもそも、いつから二人の鞄になったのだろうかと、姉がこの場にいれば思っただろう。
ポロリと、柚芽の目から涙が落ちる。
「柚芽ちゃん」
「私が悪いんだ……せっかく、新しい鞄に合わせて服も化粧もしたのに……せっかく、デートだから……かわいい恰好したかったのに……」
ポロポロと可愛い女の子が涙を落とす姿に、何を言っていいのか分からず彼氏は戸惑った。
「そうだ、じゃぁ僕が柚芽ちゃんに鞄を買ってあげるよ」
「え?本当?いいの?」
「ああ、ほら、こないだのクッキーのお礼だよ」
彼氏はニコリと笑った。
結局、何にアレルギーが反応したのかは分からないが、発疹以外にも、腹痛も出た。幸い呼吸困難などの症状は出なかったものの、発疹は家に帰っても広がり、全身が真っ赤になった。
そのため、手作りのクッキーをプレゼントされたというのに、ろくにお礼もしていないことを思い出したのだ。
「お礼なんて、別にいいのに……ああ、でも、鞄のお礼にまた今度お菓子作ってくるね!」
「え?」
彼氏の息が止まる。
「いや、気を使わなくていいよ。ほら、お礼のお礼のお礼とか、そのまたお礼とかきりがないから、鞄でおしまい」
「え?……もしかして、柚芽のお菓子迷惑だった?」
迷惑でしたと、言えるわけもない。
「まずかった?」
味よりも、もっとまずい状況が起きたともいえない。
「いや、美味しかったけど……あー」
アレルギーだと言っても信じてくれなかった柚芽にこれ以上言ってもまた前のように泣かれるだけだと、彼氏は諦めた。一体何が原因だったのか、はっきりしないし証拠もないのだ。原因はクッキーになかったかもしれない。
「早速、鞄を見に行こうか!」
話題を変えた彼氏は、柚芽と一緒に歩きだした。
その数分後。
「鞄を買ってくれるって言ったのに……嘘だったの?」
柚芽が、一つの鞄を持って、今にも泣き出しそうな顔をしている。
「それとも、これは柚芽みたいなブスには似合わないって思ってる?」
彼氏が押し黙った。
そんなことないよ、似合ってるよと言えば、じゃぁ買って!と言われそうだ。
まだ柚芽には早いよといえば、やっぱり似合ってないってことだよねと言われそうだ。
「……そう、だよね……。柚芽不細工だし、服に合わないダサいリュックだし……嫌われても仕方がないよね……」
ポロポロと涙が落ち始める。
ダサいリュック。
そうだ、柚芽は姉に意地悪をされて仕方なく持って来た鞄のことをとても気にしていた。
確かに、今柚芽が手に持っている鞄は、今日のワンピースととても似合っている。
手に持っている鞄の値札の桁が、6桁なのは、7桁じゃなくて良かったと思うべきなのか。
女性の持つ鞄としては、普通の値段なのか。
「でも、柚芽は、き、嫌われたく、ない、よ……」
ぐずぐずと泣き出した柚芽に、周りの人の目が集まる。
◆
「お姉ちゃん、鞄貸してあげる」
柚芽が有名なブランドの鞄を私に差し出した。
「え?これ、10万以上する鞄でしょ?どうしたの?」
柚芽は24歳。社会人といっていいかどうか微妙な立場だ。就職しても、「みんなに虐められるの。私は何も悪くないのに、無視されたり、きついこと言われたり……ぐすん、ぐすん」と仕事をやめること3回。
同じ職場で長く働くことができないと、短期の派遣の仕事をしている。そのため、安定した収入もなければ、貯金もろくにないはずなのに。
「えへ、あのね、プレゼントしてもらったの」
プレゼント?
「あの、あ、えっと……だ、誰からもらったかは秘密」
急に柚芽の様子が挙動不審になる。
「でも、お姉ちゃんも、こういう鞄好きでしょ?この間、柚芽に鞄を貸してくれたから、今度は柚芽が貸してあげるね!」
ああそう。
さすがに、私の元カレからもらったとは言いにくかったんだ。
……私、あの人からこんな高いものプレゼントなんてされたことないけどなぁ。
婚約破棄と言っていたあの人。仮にも婚約者だと思っていたのに、指輪はもらったことないし、まぁもらってなくてよかったけど。それ以外にも、思い出す限り……何かもらった記憶はない。
私は愛されてるんだ、こんな高いものプレゼントしてもらえるんだもんって、自慢なのかな。
……意図的にやっているわけではないのが怖い。
純粋に愛されてる自慢……いやちがうな。愛されてるというのを確認したいだけだ。
きっと、人にこれ、彼氏に買ってもらったんだと言えば「えーすごーいいいなぁ、愛されてるじゃん」と、愛されていることを人の口から確認できるんだろう。
でもね、それも、何度も何度も言えば自慢ばっかりして嫌な奴って嫌われるんだよ?
「あのね、お姉ちゃん大好きだから、一番に使っていいよ」
柚芽は基本的には悪い子ではない……今の言葉も、本心だから怖い。
騙すつもりも嵌めるつもりもない。
だから、簡単に昔は騙されてしまっていた。
これだって、うっかり、有難うといって受け取ろうものなら……。
もらったプレゼントは、お姉ちゃんが先に使ったという事実を人に言うのだろう。
せっかく上げたのに、お姉ちゃんが取り上げたのか?なんてひどい姉だ!と、尾ひれがついて私が悪役になる。
不思議なことに、柚芽の足りない言葉を、男たちは、勝手に補完して意味を与える。
「ううん違うの、とても素敵なプレゼントだから、大好きなお姉ちゃんにも使ってもらいたくて」
と、男をフォローするために、言った言葉も、柚芽はけなげだな。そんな酷い姉をかばおうとするなんて。と脳内変換されるのである。
「ありがとう、柚芽。私も柚芽のこと大好きだから」
と口にして胸の中がグルグルと黒いものが渦巻く。
妹は可愛い。嫌いになれない。
だけれど、大好きにもなれない。
突然現れる、天使の顔をした妹の中の悪魔。
何でも欲しがり、思い通りにならなければ癇癪を起し、人の話は聞かない、自分の思い通りにならなければ自分はいらない人間だ、死んだ方がいいんだと泣き始める。いつか本当に自殺するんじゃないかと……心配して慰めていた時期はとうに過ぎた。
「柚芽が先に使って。貸してほしい時には、声をかけるから」
当たり障りのない言葉で、鞄を貸してもらうのを辞退する。
そこで、私は言葉選びを失敗したことに気が付いていなかった。
☆
「あれ?あの鞄は持ってこなかったの?」
彼氏が柚芽がまたリュックで来たので尋ねた。
もったいなくて使えないというつもりじゃないよな?
「あの……お姉ちゃんに……」
彼氏は柚芽がお姉ちゃんと言葉を口にしただけで、カッとなった。
「なんだ、まさか、取り上げられたのか?」
「う、ううん、違うの、そうじゃないの、あの、お姉ちゃんに先に……使ってもらいたくて、それで、あの……」
彼氏はさらにカッとなる。
「なんだって?あいつ……自分に先に使わせろって言ったのか!くそっ。高い金だして、俺は柚芽にプレゼントしたんだ!あいつに使わせるために買ったわけじゃないっ!」
「あ、あの、ごめんなさい……」
何故、柚芽が謝るんだ。
「だって、私、私が……」
ぐずぐずと言葉を詰まらせて泣き出す柚芽。
柚芽の言葉は足りない。
相手が勝手に足りない部分を補完する。
柚芽を姉が酷い目に合わせていると。
柚芽が勝手に姉を思うためにした行動までも、姉の評判を落とす結果となっている。
かわいい柚芽が。
大人しくけなげな柚芽が。
弱い立場の柚芽が。
姉に、虐げられている。
姉に、虐められている。
姉に、酷い目にあわされている。
庇護欲をそそる柚芽の存在。
俺が守ってやらなくちゃという男の自己満足を満たす。
俺は女を守れる男だ。
俺は彼女にとってヒーローだ。
悪の存在姉から、彼女を守る。
彼女を救う。
「俺が、ガツンと言ってやる」
「だめ、やめて、そんなことしたら、私……お姉ちゃんに嫌われちゃうよ」
「柚芽、目を覚ますんだ。あんな奴に嫌われたって大丈夫だ。俺がいるだろう」
柚芽が彼氏を涙をいっぱいためた目で見た。
「ずっと、一緒にいてくれる?」
「ああ、もちろんだ。俺がお前を一生守ってやる」
「本当?」
男の自己満足。
弱い女を守る俺、カッコいい。
だが、しょせんは相手のためではない。自分の自己満足のための行動だ。
「信じてもいいの?」
「ああ、もちろん」
「……私を一生守ってくれる、私とずっと一緒にいてくれるのね?」
「柚芽……」
「嘘じゃないよね?もし、嘘だったら……」
「嘘じゃないよ。好きだよ。ずっと一緒にいよう」
「嬉しい。私、あなたがいなかったら、死んじゃうよからね。約束だよ。いなくならないでね」
☆
「あ、柚芽」
最近出会った人と、出かけている最中に柚芽と鉢合わせしてしまった。
……私は、これが嫌いだ。
柚芽は、すぐに私と一緒にいる男性に興味を持つ。
そして、常識的にはあり得ない距離感で話かけたり、ボディタッチをするのだ。
かわいい容姿の柚芽に勘違いする男性の姿を見ては、ああ、この人とも付き合えないなと。
何度淡く芽生えた恋心を諦めただろうか。
最近では会わせないようにしている。
だけど、婚約破棄事件……あれは本当の婚約ではなかったかれど、本当に婚約した相手とその後に柚芽が絡んでごたごたするよりは……。
早めに男の人の本性が分かっていいのかもしれない。
「君に似たかわいいこの子は誰?(英語)」
「妹の柚芽です(英語)」
目の前に立つ柚芽が首を傾げた。
「ねぇ、お姉ちゃん、なんて言ったの?」
ああそうだ。英語、苦手なんだっけ柚芽。
「かわいいこの子は誰って聞かれたの。だから妹だって答えたのよ」
私の言葉に、柚芽がニコリと嬉しそうに笑って、エリックの手を取った。
早いわ。ボディタッチ。
「かわいいなんて、うれしいです。あの、私、柚芽です。お姉ちゃんがいつもお世話になっています」
エリック……30歳のアメリカ人。日本語は全然分からない彼が、柚芽をハグした。
「ボクハエリックデース、ナイスチューミーチュー」
あ。
そうか。
ボディタッチ……。あっちの国のが上手だっけ。
全く動じるどころか、ハグされた柚芽の方が目を白黒させている。
あっさりと、ハグを終えたエリックが私の顔を見る。
「で、柚芽はなんていったの?〈英語)」
「かわいいといってくれてうれしい、お姉ちゃんがいつもお世話になってますって(英語)」
「君に似てるからかわいいって言っただけなんだけど、それは黙っていてね(英語)」
エリックが何のテレも無く小さくウインクする。
え?私に似てるというのと柚芽がかわいいというのを言ったのではないの?私に似てるかからかわいいって、それって、私のこともかわいいって思ってくれているってこと?
思わず色々と考えてドキドキする。
「お姉さんにはいっぱいお世話になっているのは本当だね。日本のこと色々教えてもらって助かっているんだ。でも、本当は日本のことじゃなくて、君のことも色々教えてもらいたい(英語)」
エリックが、じっと私の目を見る。
「えー、何、何、なんて言ってるの?お姉ちゃん、私のこと?」
柚芽が私の服の裾を引っ張った。
「何見つめ合ってるの?あ、もしかして、お姉ちゃんの彼氏なの?聞いてないよ、新しい彼氏ができたなんて。酷い。なんで柚芽に教えてくれないの?」
ぷぅっとほっぺを膨らます柚芽。
☆
「ち、違うわよ。彼氏じゃなくて、えーっと、英会話教室の先生の友達。英語の勉強がてら日本を案内してほしいって頼まれて……」
知り合ってから二週間。平日は仕事帰りに、休日は朝から……。毎日のように会っている。
日本にいられる日数が限られているだろうからたくさん案内してあげようって思ってのことだけど……。
「なんていったんだい?(英語)」
「お姉ちゃんの彼氏なのかて聞かれたから、違うって答えたの(英語)」
エリックが目を肩をすくめる。
「その先に、これからはどうなるか分からないって付け加えてくれた?(英語)」
「は?」
えっと、えっと、えっと?
「彼女になってほしいんだ。あ、返事は急がないよ。考えてほしい(英語)」
え?
「ねぇねぇ、お姉ちゃん、なんて言ってるの?お姉ちゃんの彼氏じゃないの?ねぇってば!柚芽のこと話てるの?」
「あ、うん、違う。これからどうしようかって」
私と、エリックの関係。これからどうなるんだろう……。
柚芽を前にしても、私をかわいいと言ってくれて。
柚芽をハグしてもなんとも思っていないようで。
「これから?えっと、どこ行くんですか?柚芽も一緒に行っていいですか?」
ニコニコと笑って、柚芽がエリックの腕を取った。
何で、そういうことするんだろう。
そりゃ、彼氏かと聞かれて彼氏じゃないと答えたけれど。初対面の姉の知り合いに対する態度ではないよね。
「何て言ってるの?(英語)」
エリックは動じることなく、単に言葉が分からないことで困った顔をしているだけのようだ。
「一緒に行きたいって(英語)」
「あはは、そうか。もしかしたら柚芽は、お姉さんに悪い虫がつかないように僕を監視するつもりだな(英語)」
はい?
「柚芽には僕が君が好きだってことバレバレなのかなぁ。お姉さんのことが心配なんだね(英語)」
そうなの?
エリックは私のことが好き?
え?
柚芽は私の心配を?……なのかな?邪魔してやろうという悪意からの行動ではないと思ってはいるけれど。
でも……。決して嬉しい行動ではない。
一緒に……行動したら、エリックは、私よりも柚芽のことを好きになっちゃうんじゃないかなって。
心がざわめく。
「でもごめんね、僕は、彼女との二人の時間を楽しみたいんだ。そうだね、彼氏だと柚芽に紹介してもらえる立場になったら皆で出かけよう(英語)」
柚芽が私の顔を見る。
いつもなら男の人の顔……いや、目をまっすぐ見て会話を続けるのに。
ああ、そうか。何を言っているのか分からないから通訳してほしいということか。
☆
「予定があるからごめんねって。また今度ねって」
「えー、予定があるの?変更できないの?柚芽、今から一緒に行きたいよ。ここで出会えたのも運命だと思うの」
柚芽のわがままが始まる。
エリックがニコリと笑って、柚芽を再びハグした。
「応援してて。また会えるといいね。バイバイ(英語)」
柚芽の言葉が止まる。
エリックが私の手を取って、柚芽に手を振って歩き出した。
さすがにバイバイって単語は聞き取れたようで、夢が力なく手を振り返している。
「柚芽、あなたも何か用事があったんじゃないの?遅れないようにね」
と声をかけると、柚芽はハッとしたように慌ててスマホを取り出して画面を確認し始めた。
……あれ?
なんだか、あっさり終わったな?
「ねぇ、お姉ちゃんエリックさんと次はいつ会うの?今度は柚芽も一緒に行っていい?」
毎日、柚芽がうるさい。
「うーん、次はいつかなぁ……」
本当は明日も会う。でも、柚芽には内緒。
「休みの日には会うんでしょ?連れてってよっ!」
エリックの言葉を思い出す。
彼氏だと柚芽に紹介してもらえる立場になったら皆で出かけよう。
……。
返事はまだ保留してある。
柚芽を私が連れて行くということは、つまり、お付き合いをオッケーしたということになる。
……。
「柚芽はデートじゃないの?」
「うん、いい。日にち変えてもらうもん」
柚芽がちょっとむすっとした表情をする。
「何?喧嘩でもしたの?」
「……酷いんだよ。なんか、お姉ちゃんは悪魔みたいな女だとか、いつもお姉ちゃんの悪口言うの」
……ああ、そう。
「私が、お姉ちゃんはそんな人間じゃないよって言っても、全然話を聞いてくれなくて」
ちょっと柚芽のことばにイラっとしてしまう。
私が悪魔みたいだと、悪い人間だと思わせる原因を作るのはいつも柚芽じゃない!何を言っているのか。
だから少し意地悪を言ってみた。
「でも、柚芽だって、いつも私のことを、酷い酷いっていうでしょ」
柚芽は本当に無自覚。だけれど、その行動で友達は逃げていく。
クラスの女子に嫌われる。どうしてと泣いて男子がかばう。そしてさらに女子に嫌われる。
友達が欲しい寂しいと言っていても、無自覚だから治らない。
会社に入っても同じようなことが繰り返され、3度会社を辞めている。
無自覚だから許してやれって、誰が言える?
「そ、それは……本気じゃないもん。怒ったときについ口から出ちゃうだけで……柚芽は本当にお姉ちゃんを酷いなんて思ってないし、お姉ちゃん大好きだし。嫌われたくないし……」
調子のいいことを言ってご機嫌を取ろうとしているわけでもない。
嘘じゃないのは知ってる。
だからって、何もかも許せるわけじゃない。
でも、どうしても許せないようなことをされてもいない。
時々距離を置きたくなる。でも、世界に1人だけの妹だ。
私のことを好きだと言ってくれる家族だ。
耐えられなくなったら、家を出ればいい。
◆
「何、これ……」
朝起きてみたら、台所がすごい状態になっていた。
酷い散らかりようだ。
「えへへ、見て、ケーキ作ったの。エリックさんにあげようと思って」
ま、た、手作りお菓子のプレゼントか。
相手が甘いもの好きか嫌いかもわからない、アレルギーがあるかないかも分からないのに……。
「エリックさん喜んでくれるかなぁ。これ渡して、お姉ちゃんをよろしくお願いしますって言うの変かな?」
「……柚芽、台所、ちゃんと片付けてよ」
ぎろりとにらみつける。
「う、うん、でも、まだ出かける準備もしなくちゃいけないし、ケーキをラッピングしないといけないから、後で」
後でじゃないよ、後でじゃ!
時間が経てば溶けたチョコは固まって洗いにくくなるし、粉もパキパキにこべりついて落としにくくなる。
そもそも、朝食を食べようにもテーブルの上には物の置き場もない。流しも洗い物の山だ。
「いい加減にしてよ、柚芽!なんでいつもいつもそうなの。片付けられないなら作らないでって言ってるでしょ?迷惑なの!迷惑!誰が喜ぶの?お姉ちゃんをお願いします?よけいなお世話よ!そのお姉ちゃんである私が迷惑だって言ってるんだから!」
思わず出た言葉に、柚芽の目には涙がいっぱい浮かんだ。
「だって……」
「だって、何?」
私のためにっていうなら、本当に作らないでほしい。
「お菓子を作ってあげると……喜んでもらえるから……」
誰が?
「美味しいって……食べてくれるから……その時だけは……」
あ。
もしかして、クラスメイト……。
距離を置いている女子たちも、お菓子を持って行ったときは食べてくれるようなことをいつか話していなかったか。
別に、いじめっ子がいて柚芽を虐めているわけではない。だから、お菓子を「こんなもの食べられるわけないじゃない!」と投げ捨てたり踏みつけたりするような子がいるわけじゃない。
食べてねと渡されて、他の子が食べて美味しいと言っていれば、食べるんだろう。
柚芽の作るお菓子は、確かに見た目もおいしそうだし、味も美味しい。
柚芽が小さな声でそれだけをつぶやき、また部屋にこもってしまった。
柚芽は仲良くなりたいからお菓子を作る。
リビングのテーブルの上には、いつもの倍も華やかにデコレーションされたホールのチョコレートケーキがおかれている。
☆
「馬鹿だね、柚芽は……、ホールのケーキなんて、今からお出かけしようっていうのに……持ち歩いてあちこち行くつもりだったの?」
ホールのケーキは特別。
誕生日にクリスマスに、本当に特別な時に作るケーキだ。
何がそんなに特別だと思っているんだろう。
のろのろと、散らかった台所を片付け、もそもそと朝食を食べて、出かける支度をする。
柚芽は、部屋にこもったまま出てこない。
もう、今日はエリックに会うつもりはないのかな。
彼氏だと柚芽に紹介してもらえる立場になったら皆で出かけよう。……と。
今日、柚芽を連れて行って、エリックに返事をするつもりだった。けれど、保留。
すっかり準備が整い家を出る時間になった。部屋の外から柚芽に声をかけたけれど返事はない。
リビングのテーブルには、チョコレートケーキ。
そっとケーキ箱に入れて、持って行くことにした。
保留はやめよう。
「エリック、これ柚芽から。おねえちゃんをよろしくお願いしますっていう贈り物ですって(英語)」
「え?それ、どういう意味?(英語)」
「あー、次会うときは、柚芽も一緒にどう、かな?(英語)」
エリックに交際オーケーの返事をすると、ぎゅっと思い切り抱きしめられた。
「やったー!最高!ああ、もちろんだ、もちろんよろしくするよ。柚芽にも伝えてくれ。贈り物なんてなくたって、僕は君のお姉さんを大切にするって!(英語)」
それから、二人で飲み物と紙皿などを買って公園へ向かった。
「うわぁすごいね!これ本当に柚芽が作ったの?今まで見たどんなケーキよりも素敵だよっ!(英語)」
「でしょう、柚芽はお菓子作りがとても上手なの。見た目だけじゃなくて味も最高よ(英語)」
早速エリックが柚芽の作ったケーキを切り分けて一口食べた。
「本当に、美味しいよ!これ、柚芽が作ったの?今まで食べたどんなケーキよりも美味しい!(英語)」
「あはは、なんだかさっきと同じこと言ってる。見た目も味も最高だけれど、一つだけ欠点があるのよ(英語)」
「欠点?(英語)」
しまった。よけいなことを言った。
とっさに口をふさぐと、エリックが首を傾げた。
「それは、また食べたくなって困るとか、食べ過ぎて太るとかいう話?(英語)」
「そ、そう、そ、そうなの!(英語)」
思わず視線を逸らしてエリックに答える。
エリックには私の様子がおかしかったのはまるっとおみとおしだ。
食べていた途中の皿をテーブルの上に置いて、私の顔をまっすぐと見た。
「本当は何?マイスィート、本当のことを言って(英語)」
……。しまった。
泣きそうだ。
☆
「妹は……。作るのはプロ並みだけれど、作った後の台所はそれは酷いもので、毎回どうしてそれほど散らかせるのかって状態で。しかも、いつもそのまま片付けもしないから、私が片付けて……(英語)」
これでは、妹のせっかくのお菓子を作る腕を嫉妬して欠点を探して悪口を言っているようなものだ。
「それは最高だ!(英語)」
え?
エリックが笑顔になった。
「じゃぁ、このケーキは、柚芽とマイスィート二人で作ったっていうことだね!(英語)」
「ううん、柚芽一人で……(英語)」
柚芽の手柄を横取りするようなことまではしたくない。ちゃんと否定しようと力なく言葉を続ける。
心の中では、ぐるぐるとエリックに嫌われたくない……と言う思いが渦巻いてる。
ああ、私……。エリックのこと、知らない間にこんなに好きになってたのか。
「二人でだよ。映画だって、監督だけじゃできないし、俳優だけでもできないだろう?なんでも一緒さ!柚芽が焼いて君が片付ける、チームで作ったってことだろう?姉妹で仲良くチームでお菓子が作れるなんて最高じゃないか!そんなケーキを食べられる僕は幸せ者だね!(英語)」
エリックの言葉に、ぽろりと涙が落ちた。
「どうしたの?(英語)」
「な、仲良くなんか……ない。いつも私は、片付けなさいって怒って、イライラするだけ。妹は泣いて部屋にこもって……喧嘩ばかりで(英語)」
エリックが私の背中をポンポンと優しくなでてくれる。
どれくらいそうしていたのか。少し落ち着いた私に、エリックが尋ねた。
「ねぇ、マイスィート。君はお菓子を作らないの?(英語)」
まだ、マイスィートと私を読んでくれることに少しホッとする。
「それとも、お菓子が作れないの?(英語)」
え?
「私は……その、ダマは残るし、焦げるし、うまく作れない……(英語)」
エリックがニコリと笑う。
「じゃあ、柚芽は、片づけをしないの?片付けができないの?(英語)」
え?
片付けなんてめんどくさいからやりたくないからやらないだけで……。
「僕の会社でもね、片付けが苦手な人がいるよ。彼は優秀な開発者なんだけどね。でも、大丈夫なんだ。とても片付けが上手い社員を雇ってサポートしてもらっているからね(英語)」
ぼんやりしている私にエリックが続ける。
「片付けができないのではなく、片付け方が分からないだけかもしれないし、片づけをしたくないだけかもしれないし、分からないけれど、柚芽はどうなの?(英語)」
片付けが、できない?
片付け方が分からない?
考えたことも無かった。
☆
「ああ、それにしてもこのケーキ最高だよ!柚芽、ケーキ屋になれるね!僕は、甘いものが大好きなんだ。ああそうだ(英語)」
エリックがケーキを食べるのを再開する。
本当に美味しそうに食べている。
「すっかり忘れていた!半分になっちゃったけれど、SNSで自慢してもいいかな!(英語)」
エリックが、スマホを取り出してケーキの写真を撮影した。
「僕ね、シュークリームも大好きなんだ。今度、柚芽ちゃんと一緒にお菓子を作ってくれるなら、シュークリームがいいな!(英語)」
スマホの操作を終えたエリックが、私の肩をポンっとたたく。
「一緒に……お菓子を……」
柚芽が作って私が片付ける。二人で作ったことになる……。
ああ、せっかくだから、芽維に教えてもらいながらシュークリームを作ろう。粉をはたくだけでも手伝わせてもらおう。
そして、私が片付けを柚芽に教えながら、洗い物一つでも柚芽にしてもらおう。
エリックが言うように、今度こそ仲良く二人で……作れたら……。
「柚芽!エリック喜んでたよ!今度はシュークリームが食べたいんだって。一緒に、今度は一緒に作ろう!」
帰ったらそう声をかけてみよう。
あれから3年。
柚芽は元彼とは1年続かなかった。元彼が、ことあるごとに私を悪く言い、柚芽を守るためだと無理に家を出させようとしたためだ。
それから、柚芽はアルバイトをしていたケーキ屋で社員になって働いている。今までの仕事の中で一番長続きをしている。
片付けることができないと初めに言い、お菓子を作ることが大好きだということを伝えてそれでも雇ってくれたアルバイト先だ。
面接のときには、エリックに薦められて始めた、オリジナルのお菓子の写真をのせたSNSの写真を見せた。
いいねが付く、誰かに認められることが柚芽の気持ちを安定させたのか、少しずつ変わっていくのが分かった。
片付けは相変わらずできない。
だけれど「お姉ちゃん手伝って」と「ありがとう」が言えるようになった。
そして……。
「お姉ちゃんのウエディングケーキは私に作らせて!って、エリックさんにも伝えて!私、絶対絶対、世界一素敵なウエディングケーキを作るから!」
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