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でも、なかなか眠れず、目を開けたまま天井を見ていた。
そういう時に限って、天井の木目をじっくりと目を凝らして見てしまうものなのだ。
え、まさか…
木目が動いた。
ゆっくりと渦を巻きながら、形を変えていく。僕の身体は縛られたように動かない。
人の顔ではなかった。
鬼だ。
口は頬まで裂け、目のつり上がった恐ろしい形相をした鬼だったのだ。
がっと口を開けて、鬼の顔だけが天井から落ちてきて、僕を食べようとしたのだ。
僕は母に抱きついて、泣いた。
僕の尋常でない様子に母はさすがにびっくりしたみたいだったが、
「また夢をみたの? しょうがない子ねえ」
夢だと言い張る。父も明日は仕事があるので、不機嫌な声で僕を叱った。
「早く寝ろ。また起こしたら、自分の部屋へ帰すぞ! わかったか」
僕は布団の中にもぐり、一夜を明かすことになった。
父に怒られても、母に信じてもらえなくても、守ってくれるのは両親しかいなくて、いつのまにか僕は眠りについた。
それ以降、僕はピンクの光も天井の顔も見ることはなくなった。
月日はたち、僕は独立して所帯をもち、そして父母は老いた。
両親が住んでいる家を解体して、リフォームすることになった。
家の解体業者が僕に言った。
「阿賀野さん、ちょっと見てもらいたいものがあるのですが」
「なんですか」
「これ、二階の部屋の天井板の裏側なんですけどね、なんだと思いますか」
業者は、埃と泥まみれになった天井板を見せてくれた。
人間の輪郭線が描かれていた。
しかし、首のない図柄だった。
「気味悪いですね」
僕は背筋に冷たいものを感じた。幼い頃のできごとが蘇ったのは、言うまでもない。
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