第2話 天井の顔

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 でも、なかなか眠れず、目を開けたまま天井を見ていた。  そういう時に限って、天井の木目をじっくりと目を凝らして見てしまうものなのだ。  え、まさか…  木目が動いた。  ゆっくりと渦を巻きながら、形を変えていく。僕の身体は縛られたように動かない。  人の顔ではなかった。  鬼だ。  口は頬まで裂け、目のつり上がった恐ろしい形相をした鬼だったのだ。  がっと口を開けて、鬼の顔だけが天井から落ちてきて、僕を食べようとしたのだ。  僕は母に抱きついて、泣いた。  僕の尋常でない様子に母はさすがにびっくりしたみたいだったが、 「また夢をみたの? しょうがない子ねえ」  夢だと言い張る。父も明日は仕事があるので、不機嫌な声で僕を叱った。 「早く寝ろ。また起こしたら、自分の部屋へ帰すぞ! わかったか」  僕は布団の中にもぐり、一夜を明かすことになった。  父に怒られても、母に信じてもらえなくても、守ってくれるのは両親しかいなくて、いつのまにか僕は眠りについた。  それ以降、僕はピンクの光も天井の顔も見ることはなくなった。    月日はたち、僕は独立して所帯をもち、そして父母は老いた。  両親が住んでいる家を解体して、リフォームすることになった。  家の解体業者が僕に言った。 「阿賀野さん、ちょっと見てもらいたいものがあるのですが」 「なんですか」 「これ、二階の部屋の天井板の裏側なんですけどね、なんだと思いますか」  業者は、埃と泥まみれになった天井板を見せてくれた。  人間の輪郭線が描かれていた。  しかし、首のない図柄だった。 「気味悪いですね」  僕は背筋に冷たいものを感じた。幼い頃のできごとが蘇ったのは、言うまでもない。    
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