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08.
そんなこんなで、色々ありつつ──店がオープンしてから、一年が経った。
「……一周年、おめでとう」
「ありがとう」
「ありがとうございます、武藤さん!」
一周年の日。開店早々やって来たのは、春ちゃんだった。
大きな花束に「よっ、流石は副社長!」と横で言っている翼の頭を、俺は煩いと叩く。
……ちなみに、流石に一年も毎日通い続けているのもあって、翼には春ちゃんの名字だけは、もう知られてしまっている。
(まあ名前までは、まだ知らせてないんだけど)
「出会って一年か……長いようで、短いようで」
「……そうだな」
翼が花束に夢中になっている隙に、俺は春ちゃんの手に自分の手を絡め、耳元で囁く。
「……今晩、俺の家に来ない?」
「っ──!?」
耳まで真っ赤になっている春ちゃんを見て、俺は満足して手を離す。
付き合い始めて、まだ日が浅いわけだし、まだ早いかな?
──と、思ってたんだけど。
「……え?いいの!?」
春ちゃんが確かに、こくりと縦に頷いたのを見て、俺は思わず声に出してしまった。
「何がいいんです?佐藤さん」
「翼には内緒の話し!」
「えー!?狡いですよ、お二人だけ!!」
「っ……」
「はい。これ、一周年記念の菓子」
「これは……?」
「アムール・コンフィット──苺の砂糖漬けだよ」
「アムール……店の名前か」
「苺といえば、最初の試食会で出したお菓子も、苺でしたね!」
「そっ。俺と、しゅ──武藤さんをイメージして、作ったんだ」
「え……お、俺?」
「この砂糖漬けは、日に日に甘くなっていくんだ。まるで、今の俺たちみたいでしょ?」
「っ!……──ああ、そうだな」
「ああっ!武藤さん今、笑いました!?」
「え……笑っていた、か?」
「笑ってましたよ!間違いなく!!」
「おい。騒がしいぞ、翼」
俺と春ちゃんの、砂糖漬けのように甘い愛は、日に日に……そして、まだまだ甘くなっていく事だろう。
そう──この大切な菓子(想い)は、まだ砂糖に漬け始めたばかりなのだから。
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