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あるとき、人間の国の様式が大きく変わりました。新しい王様は魔女や魔物を一切認めないと掲げました。そして、どんどん人間の国から、人間ではないものを排除していきました。
王様はそれだけに飽き足らず、森の奥へも侵攻を開始しました。森も、山も、河も、すべて人間が手に入れるべきだと信じて疑いませんでした。国民は強気な王様に賛同して、心酔していきました。
そしてとうとう、森の奥に住む魔女と魔物は人間たちに見つかってしまいました。
魔物は何百年かぶりに、人間に化けました。美しい女の姿となり、兵隊たちの前に姿を現しました。弱い兵隊たちはあっという間に魔物の虜になり、魂を丸呑みされてしまいました。
「あぁ、なんて人間の魂はまずいんだろう。こんなまずいもの、喰えたもんじゃない」
魔物は嘆きました。
次に、強い兵隊たちがやって来ました。
「恐ろしい魔女め! 成敗してくれよう!」
兵隊たちは魔女の家に向かって、どんどん火のついた矢を放ちました。
「困ったもんだ。魔女を敵に回すと、おそろしいことになると教わらなかったのか」
呆れながら魔女が外に出てきたところに、兵隊たちは続けて弓を引きました。
すると、そのうちの一本が魔女の心臓に刺さってしまいました。普通の弓矢であれば全く平気なのですが、その弓矢は、死んだ魔女の血を固めて作られた特別なものでした。
魔女は呆気なく殺されてしまいました。
いえ、正確にはまだ虫の息。駆け寄ってきた魔物を見上げて、にやりと笑いました。
「こうなってしまったら、もうどうしようもない。あたしの魂を全部喰らって、どこへでもお行き」
最期の力を振り絞ると、今度こそ魔女は動かなくなりました。
強い兵隊たちが魔物をぐるりと取り囲みます。今や、魔女の骨で作られた剣の切っ先が魔物に向けられていました。
「もうひとりの魔女め! お前も殺して、我々は、ふたつの首を国王へ献上するのだ!」
魔物は呆然と、こと切れた魔女を見下ろしていました。
「運命の相手とはどういうものか知っているかい?」
魔物はぽろぽろと涙を零しました。
尋ねたって魔女は答えることができません。何故なら、もう死んでいるのです。
それでも魔物は構わずに続けました。
「私はどこへも行かない。死ぬ場所と時間が揃うのが、運命の相手なのだから」
言い終わるのと、魔物が串刺しにされるのは同時でした。
魔物は元の恐ろしい姿に戻ると、魔女を覆うようにして倒れました。そしてそのままどろりと融けて、魔女ごと消えてしまいました。
そのため、魔女と魔物がどうなってしまったのかは、誰にも分かりませんでした。
おしまい。
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