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少年期
同じ庭に、今度はりりしい少年が立っている。眼鏡をかけており、学生なのか、白いシャツに黒いズボンをはいていた。
「坊ちゃん、どうなされましたか」
「……いや、昔の事を思い出していた」
「あら、いつのことでございましょう」
部屋の奥に、籐椅子が置いてある。その椅子に、女が座っている。
「お前が……目を悪くする前の事だ」
女の目は、包帯で隠されていた。服が上等な分、頭を覆う包帯が異様であった。
「あらまあ、ずいぶん昔のことですね」
「俺は、お前の事が好きだった」
「ふふ、大人をからかうものではありませんよ」
「お前になら、池に突き落とされてもよかった」
「そのようなもったいないお言葉、身に余ります」
「夏子」
男は、女の方を向き、名を呼んだ。
「俺の声が聞こえるか」
「はっきりと聞こえていますよ」
「俺の姿が見えるか」
「おかしな事をおっしゃいますね、わたくしの目のことを知っていながら」
「……俺は、お前の目の色が好きだった」
「……草の色をした目など、おかしいだけでございます」
「世界で一番美しいと思っていた」
「……坊ちゃん」
「なんだ」
「話し疲れてしまいました。どうか、しばし、休ませてください」
「ああ」
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