青年期

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青年期

 再び同じ庭。  今度は、背広を着た男が、懐中時計を神経質そうに見ながら、庭を眺めている。 「夏子」 「なんでしょう」 「お前は、俺に仕えて幸せだったか」 「当然のことをお聞きにならないで下さい」 「俺は、お前に好きだ好きだといいながら、結局他の女を選んだ」 「……坊ちゃん、目の見えない女中のことなど、忘れてください。あなたはこれから、幸せになるのですから」 「……お前はそれでいいのか」 「わたくしは、坊ちゃんにお仕えできて、今日まで幸福でございました。今度は坊ちゃんが、幸せになる番でございます」 「俺は……、お前に一度でいいから触れてみたかった」 「もったいないお言葉です」 「夏子」 「なんでしょう」 「俺の心はここに置いていく」 「どういう意味でございましょう」 「俺は夏子が永遠に好きだ。どこぞの資産家の娘になど、心は明け渡さない」 「……やめて下さい。このようなおめでたい日に」 「夏子、愛してる」 「誰かに聞かれたら……」 「今からでも、お前に池に落とされてもかまわないんだ」 「お前になら、命だってくれてやる」 完
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