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「いいエアコンを買いましょう」
ある昼下がり、妻が突然そんなことを言い出した。
急にどうしたんだろう。普段はエアコンのことなんて口に出さないのに。
今日が僕たちの結婚記念日だからだろうか。けれど入籍と同時に購入したエアコンは三年経った今もまだまだ壊れる様子はない。
「今のエアコンもそんなに悪い子じゃないと思うけど」
「でももっといいエアコンがこの世にはあるはずだわ」
「謎の向上心」
「なにか言った?」
「いいえなにも」
彼女がこうなってしまえばもう僕の言葉は届かない。リビングの隅に設置されているエアコンを睨みつけている。
対してエアコンは涼しい顔をしていた。いや涼しい風を吹かせていた。
「このどこ吹く風みたいな態度が気に食わないのよね」
「風の吹かないエアコンほど要らないものはないと思うけど」
やはり僕の言葉は届いていないのか、何も聞こえなかったかのように妻はてきぱきと外出の準備を進める。
透け感のある白いシャツを羽織った彼女はまるで風を纏っているかのようだ。
「じゃあ早速電器屋さんに行きましょう。エアコン切って」
「短時間ならエアコンを切らない方が電気代お得らしいよ」
「働かせてる方がお得なんて社畜をはべらす経営者の気分ね」
「最高の気分じゃないか」
僕たちはエアコンを付けっ放しで家を出た。手を繋いで近所の家電量販店へと向かう。
最高の気分なので、スキップで。
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