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「へえ、最近はいろんなエアコンがあるのね」  白いエアコンがいくつも並べて取り付けられている壁を眺めながら妻はそう零した。  彼女の言う通りここにはいろんなエアコンがあるはずだが、僕にはどれも同じ白い長方形の箱に見える。 「最近のはAIが入ってるんだね」 「AIってそんなにすごいの?」 「人の生活パターンを学習して風量や風向をコントロールしたり、壁や床の熱を検知して重点的に冷やしたりするんだってさ」 「じゃあやつらがその気になれば、お風呂上がりの熱々の身体に熱風で追い打ちをかけることも可能ってこと?」 「エアコンに何したらそんな凄惨な仕打ち受けるんだよ」  想像するだけでも額が汗ばんでくるようだ。  しかし妻は冷ややかな目でエアコンの群れを眺めながらすたすたと歩いていった。手が繋がっている僕も彼女の歩みに引っ張られるようについていく。 「でもAIってなんか怖いわね。見張られてるみたいで」 「カメラとかセンサーとかついてるらしいし、確かにちょっと気になるかもな」 「その割になかなかいいエアコンがないわ」 「結構なスピードだけどちゃんと見てるんだね」 「もちろんよ。でもなかなかピンと来ないのよね」 「どんなの探してるの?」  僕が声をかけると妻は急にぴたりと立ち止まって、じっとエアコンの説明を目でなぞる。それから「これもダメね」とため息をついた。 「空気を読んでほしいのよ」 「暑いとか寒いとか判別するってこと?」 「それもあるわね。私暑がりだから温度は低いほうがいいけど、寒がりだから風量は抑えてほしい」 「そういうのAIならできそうだけどな」  彼女の要望を満たす機能を持つエアコンがないか、各機種の仕様書に目をやる。「でもそれだけじゃ物足りないわ」と妻の声が頭上から聞こえた。 「私がボケたら適切にツッコんでほしいし、私がスベッたらさりげなくフォローしてほしいし、私たちの会話が途切れたら適度な尺のおもしろエピソードで繋いでほしい」 「エアコンには荷が重すぎるだろ」  そんな敏腕MCエアコンがいたら世のバラエティ番組の司会はすべてエアコンに置き換わってしまう。  ふーん、と妻は不満そうに唇を突き出した。 「AIって大したことないのね」 「君のハードルが高すぎるんだよ」  ふーん、と彼女はもう一度唇を尖らせる。  まるでその唇に口づけるかのように目の前のエアコンが急に風を吐き出した。
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