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「でもエアコンってなんで白ばっかりなのかしらね」
「部屋の壁紙に明るい色が多いかららしいよ。昔は違う色のエアコン売ってたこともあったみたいだけど、全然売れなかったんだって」
「みんなエアコンは見えないところで風だけ出してろ、と思ってるのね」
「もはや生活必需品だってのに不遇すぎるな」
ヒーローなんてそんなものかもね、と言いながら妻は大股でエアコンエリアを闊歩する。従って僕もその後ろをなぞるように歩く。
壁に整列している白い箱は電源がついているものもあれば消えているものもある。スリープ状態なのかもしれない。機械が自ら休むことを選べるのは十分賢いと思う。
彼女の歩みに置いていかれないよう足を動かしていると、ふと大きな柱に目がいった。
柱は四面が鏡張りになっていて、そこには腕の先が繋がっている僕と彼女の姿がある。
「懐かしいな」
ぴたりと前方を歩いていた妻が立ち止まる。
突然のブレーキに驚いたが、彼女の後頭部がぶつかる寸前で僕もなんとか歩みを止めた。
そのまま頭だけで彼女は振り返る。結局後頭部は僕の身体に少しぶつかった。
「なに?」
「いや、出会ったときもこんな感じだったなあって」
僕の言葉に、妻も鏡の柱のほうを向いた。鏡越しに僕たちは目を合わせる。
「逆でしょ」
「逆だねえ」
彼女の呟きに僕は思わず笑った。
結婚して三年が経った今でもありありと思い出せる。それは素敵な出会いとは言えないけれど、到底忘れられない鮮烈な記憶。
僕たちが出会ったのも、とある家電量販店のエアコン売り場だった。
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