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「助けてください」  似たような形のエアコンたちに目を回していると、背後から女性の声が聞こえた。  振り返ると僕より頭ひとつ小さい背丈の見目麗しい女性が立っている。  夏が間近に迫ったタイミングで部屋のエアコンが壊れ、命の危機を察知した僕は給料日をきっかけに新しいエアコンを探していた。  彼女も同類だろうか。そう思うと同時に疑問が生まれる。  それなら助けを求めるのは僕にではなく店員にすべきじゃないか? 「ストーカーに追われてるんです」  そう告げる彼女の背後に人影が見えたとき、僕は彼女の手を取ってエアコン売り場の通路に飛び込んでいた。  正直に言うが、決して彼女の美しさに(ほだ)されたからではない。  彼女の美貌には説得力があったからだ。ストーカーの一人や二人いてもおかしくないな、と自然に受け入れていた。 「ストーカーってさっきの人ですか?」 「はい。駅からずっとついてきてて」 「――心外だなあ」  いつの間に回り込まれたのか、僕たちが歩いていた通路の先から先程見えた人影が突然現れた。 「俺はストーカーじゃないぜ。ただの君のファンさ」  男は両腕を広げながら僕たちの前に立ちはだかる。  遠目にはわからなかったが、男はかなり大柄でがっちりと筋肉のついた身体をしていた。日本人の標準よりも少し痩せている僕では到底太刀打ちできない。  ぎゅ、と右手が強く握られた。  後ろに立つ彼女は無言のまま俯いている。しかし繋がった手は震え、縋るように力が込められていた。  ビビってる場合じゃないだろ。  僕は周囲に目を走らせた。エアコン売り場の隣に置かれている扇風機が視界に映る。  その言葉が頭に浮かんだ瞬間にはすでに口から飛び出していた。 「君がファンなら僕はエアコンだ」
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