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「私たちの出会いは誰がどう見ても劇的だったと思うのよね」 「僕にとっては半分黒歴史なんですが」 「私にとっては白エアコンの王子様よ」 「まったく嬉しくないのはどうしてなんだろう」  しかしまあ劇的と言われればそうなのかもしれなかった。  僕のようなひょろい男が自分よりも大柄な男に正面から立ちはだかり美女を守り抜いたと見えなくもない。方法はさておき。 「そんな出会い方をした大人の男女がその後幸せな結婚に至ることくらい大体の人が想像できるでしょ」 「まあドラマとかではそうなるだろうな」 「じゃあその後は?」 「その後?」  その問いかけの意味がわからず僕は妻の顔を見た。  彼女もこちらをじっと見つめている。丸く光を湛えた瞳は吸い込まれそうなほど綺麗だ。 「ところで私ってめちゃくちゃ美人よね」 「急にどうした」 「本人が目の前でここまでハッキリ言っちゃっても正面から否定できないくらいには私は美しいのよ」 「どうにか君に静音モードを搭載できないかな」  勝ち誇ったような笑みを浮かべる妻は「けどね」とその笑顔を消した。 「あと二十年もすればこの美しさも無くなるわよ」  彼女はそんな言葉を放った。そこに悲哀はなく、ただそうである事実を述べるだけの事務的な声音。  時間とは残酷だ。  どんなに艶やかな美貌も、鮮やかな思い出も少しずつ薄れていってしまう。 「でも私、抗いたいの。できるだけ長く美しくありたいと思うし、できるだけ長くあなたと仲良し夫婦でいたいのよ。だから思い出してほしかった」  私がいいエアコンに出会ったあの日のことを。  妻の声が耳に届いて、脳に響いた。
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