おクスリの時間

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今日はどうにも体が動かない。 窓から差し込む朝日で目を覚ましたが一向にダメだ。頭がぼんやりして奥の方に鈍い痛みがある。熱がある感じはしないが、起き上がれる気が全くしない。 まぁ今日くらいはいいんじゃないか。なんせ、一年もの間休むことなく働いてきた。一年ぶりのお休みと考えたらそう悪くないだろう。そんな私を非難する人などいないはずだ。むしろ良く頑張ったと理解を示してくれるだろう。 一年前、同居の義父が寝たきりになった。 きっかけは階段を数段踏み外したことによる足首の骨折だ。ギプスをはめられ松葉杖をついて病院から帰ってきた。 初めこそ自分ができることは松葉杖をついて必死にやっていた。食べ終わった食器を一つ手に持ちよろよろとシンクに運んだ。風呂は入れないので体を拭くタオルを持っていくと、部屋から出ていくよう言われ自ら拭いていた。もちろんトイレもきちっとできていた。 しかし、一度だけ体を拭く手伝いをすると、楽を覚えてしまったのか、それ以降私にやってくれと言うようになった。 トイレはさすがに手伝えなかったが、ある日粗相をおかした。ベッドの上で小便を漏らしたのだ。 ほぼ全てを私にやらせるようになり、動かなくなったことで動くこと自体がめんどくさくなったのだろう。 しかし、なんのプライドかわからないが、自分がしたのではないと怒鳴る始末である。誰がどう見ても犯人は一人しかいない。自分がやったんじゃない、との一点張りで謝ることなどもちろんしない。 今回だけはおおめに見てあげようと思ったのだが、その日からトイレに行くことをしなくなり、大も小も関係なくベッドの上で垂れ流すようになった。 おもらしシートは敷いてはいるものの、その上に置いてあるタオルと一緒に一日に何回も変えた。ただでさえ仕事が多い介護に、更なる精神的負荷をかけられた。 床ずれのある寝たきり老人を、汚れがつかないようにベッドの上で転がしながら汚れ物を引き抜き、汚れた体を拭いてから着替えさせ、綺麗なシートとタオルを敷く。素人の女手一つで作業するのは大変極まりない。 数日経った日、一向にトイレに行こうとしない義父に私は我慢の限界に達し、オムツを購入した。自分はそんな老人ではないと猛反発する義父に何度も蹴られながらも無理やり履かせた。
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