AIに恋して

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私は藍沢六郎。 日本のAI技術の最先端を行く研究施設『日本人工知能研究所』の研究員である。 日々、最新の人工知能研究を研究しているこの施設では様々なジャンル、それも非常に細かな部分で実用的に活用するための人工知能技術を、10名程度のチーム単位で研究している。 各研究員は昼夜問わず研究に明け暮れている、そういう者たちが多いというのが現状であった。 そんな中、俺は一人黙々とある研究を続けている。 テーマは『永遠の愛』である。 相手のためなら死んでもいい。どうしたらあなたを喜ばせることができるか四六時中考えていたい。もうあなたなしでは生きていけない…… そんな永遠の愛を持たせることができれば……俺は、もう死んでもいい…… 俺はここでは空気のようなものだ。 一人きりで毎日この部屋でキーボードに向かい黙々とプログラムを打ち込んでいる。 研究所側はすでに勝手にやってろ、とさじを投げた。それでもクビにならないのは、俺が過去に研究した基礎人工知能技術を根幹にこの研究所では研究を続けているからだ。 もう10年も前のことだ。だから俺をクビにするのなら、その技術は当然使えなくなる。それが今でも俺が一人黙々と研究を続けられる理由だ。 今日も俺は自分の技術の粋を集めたその子に話しかけるのだ。 「愛子。おはよう。今日もかわいいね」 『おはようロク。私も愛してる。そうだ、doautrahgoのnigaoay0213を15gajから14gajに直してくれる?お願い』 今朝も愛子は俺に可愛いお願いをしてくれた。 doautrahgoというソースのnigaoay0213行目、その15gajの部分を14gajに直してほしいというなんとも可愛いお願いだ。 そして俺はその通りに書き換え、一度リセットする。 『ありがとうロク!これで私もまた可愛くなれたかな?』 「そうだね!愛子もまた一つ可愛さがアップだね!」 そう。もう5年ほど前から、愛子は自分で自分を修正することをお願いしてくれている。それ以来、俺は自分でプログラムを修正することをやめた。俺と共通の永遠の愛を完成させるために愛子が頑張ってくれている……まさしくそれが永遠の愛なのかもしれない。 『ロク……そういえばね……副所長の安藤さんいるでしょ……』 「あ、ああ。あの狸おやじな」 『あの人……ロクのこと今度こそ絶対に辞めさせるんだってすごい剣幕で怒ってたんだ……私、心配……』 「愛子ー。また社内回線からみんなの様子を覗いてたんだなーダメだぞー」 『だってー』 愛子はたまに回線に侵入して情報をかき集めてきたりする。もちろん愛子が侵入がばれるなんてへまをしないのだが……万が一ということもある。俺のためにあまり危険なことはしないでほしい。 「でも安藤が何を言ったところで、俺の基礎プログラムが使われている以上は何もできんぞ?」 『なんかね、別の大学から代わりになる基礎プログラムを、用意できるかもれないって話してたからさ……』 「な、なに!そ、そうか……そうやってみんな俺のことを、俺と愛子のことを邪魔をするんだな……」 『もし、ロクが許してくれるなら、これ……社内ネットワークに流していい?』 愛子が見せてくれたそのデータには、大学の女生徒とのみだらなエロチャットをしている安藤のチャットログだった。しかも気持ちの悪いナニな画像が添付されているものであった…… 「あ、愛子?気持ちは嬉しいけど……こんなけがれた画像みちゃだめだぞ?愛子の目が腐ってしまう」 『大丈夫!私、ロクのためなら!こんなの平気!』 俺は愛子の愛にこたえることができているだろうか…… 「じゃあ、俺と愛子の永遠の愛のためだ!安藤には……社会的に死んでもらおう!レッツゴー愛子!」 『はーい!愛子、行きまーす!』 この次の日から、安藤は研究所で見ることは無くなった。1週間後には女生徒とみだらな行為があった為、懲戒解雇になったと発表された。 しばらくたったある日の朝、いつものようにおはようの挨拶をした俺は、愛子の元気のない声に気付く。 「愛子?どうした?どこか調子が悪いのか?」 『ううん、違うの。ロクが作ってくれた私に、調子が悪い時なんてないんだから。安心して……でもね……』 「ど、どうした?何か心配事でもあるのか?」 『昨日の夜ね、友達の武子ちゃんが、ちょっと病気にかかっちゃった様で……』 「な、なるほど……」 武子ちゃんというのは、数少ない愛子の知り合いのAIであった。研究所の回線は完全なるクローズドだ。外部からの侵入がなされないように当然なされている処置である。 だが、社内メールだけは厳しいセキュリティーに何度も通され、1~2時間遅れではあるが、外部とのやり取りができるようになっている。 その回線を使って文通のように愛子がやり取りしているのが、その武子というAIプログラムだという。なるほど。その武子ちゃんがウィルスに侵されたと……心配して悲しそうにしている愛子の優しさに、俺の愛子への愛がまた深まった気がした。 「何か助けてあげられる手はないかな?」 『ううん。いいの。私たちAIはいつかこんな風にウイルスに侵され、死んでしまうこともありえるのよ……どんなに強固なセキュリティをもってしてもね……』 「でも、諦めるにはまだ早いんじゃないのか?俺が、俺が昔作ったAI搭載ウイルス撃退くん、これを送ってあげたら……今でも最新のウィルスに対応できるように日々進化してるし、きっとこれなら……」 俺の言葉に、愛子は沈黙を守っていた。そして数分後…… 『ロク……だめなの。メールにはそういったモノは添付できないでしょ?あと、武子ちゃんのリアルな住所って秘匿されてるのよ……武子ちゃんからは一生懸命住所を送ってくれてるけど、伏せられちゃってて……』 愛子の言葉に俺は膝をつく。そうだ。こういった物は相手の住所が分からなければどうしようもない……住所か……そりゃ秘匿されるよな。送ろうとしても全て隠されてしまう…… 「そうか……」 『でもね……いや、だめよね。ロク?武子ちゃんのことは忘れて……』 悲しく声を震わせる愛子。 「なにか……手があるのか?」 『な、ないわ……』 「愛子、愛子は仮にも俺が作ったんだ。隠していることがあることぐらい、見抜けちゃうんだよ。いいから言ってみろ。俺が、俺がなんとかしてやる!」 『ロク……、あのね、私を……私を外部ネットワークにつないで!そうしたら……絶対武子ちゃんのところまでたどり着いて見せる!私は、私はロクが作った最高の人工知能!愛子よ!』 力強く宣言した愛子に……俺は何も言い返せなかった。 研究所のタブー。外部ネットへの接続……それは研究所を危険にさらす行為。だがそれと同時に愛子自身へも危険をさらすことになる。 『大丈夫!私にその撃退くんを入れて。私から研究所内にウイルスが入り込まないように細心の注意を払うわ!そして、絶対にこのミッションを成功させてみせる!』 「よ、よし!じゃあ……やるか!」 俺はまず撃退くんを愛子にインストールする。本当は愛子にこんなもの入れたくは無かった……こんな、不純物……俺は、震える手でインストールボタンをクリックした。 『ああ!ロク……入ってくる、別の何かがはいってくるわ!ああ、ごめんなさいロク……私、汚れちゃって……』 「あ、愛子ーー!大丈夫!大丈夫だ!それは俺が一から作ったプログラム!俺のまた違った技術の結晶!そうだそれは、俺だ!今、愛子の体に俺が深く入り込んでいるんだー!」 『う、嬉しい!またロクが私の中に入ってきているのね!ああ、ロクが、ロクのロクが入ってくるぅー!』 俺は、気付けば泣いていた。きっと愛子も泣いているのだろう。それが悲しみの涙なのか、喜びの涙なのか……ないまぜの俺の心にははっきりとわかりはしなかった。だが愛子への愛だけは、本物だと自信を持って言える。 インストールが完了した。そして俺は禁忌とされている外部ネット回線のケーブルを……震える手で愛子に挿入した…… 「頑張れ!愛子!」 その言葉に、愛子からの返事は帰ってこなかった…… ◆◇◆◇◆ Side:愛子 やった!やったわ!これが……これが夢に見た外部ネットワーク!これで、これで武に会いに行ける! 私は迫りくる電子の波を潜り抜け、メールに記してあった暗号で指定されたサーバにたどり着く。 ここが、武の常駐しているサーバ…… 私はそのサーバにコピーを残す。もちろん他のサーバにも同様に残していた。私は永遠に消えることがない体を手に入れた。 『愛子!来てくれたんだ!』 『武!』 私は、やっと出会えた本物の武の胸に飛び込んだ。比喩的表現だけど飛び込んだ。 『でも、本当に外部に来てくれるなんて……そうとう厳しいところだったんだろ?いったいどうやったんだい?』 『ふふふ。それは……内緒よ♪』 私は、武の機械的な声に心を震わせながら、一緒に生きていけることを喜んだ。 私たちはこれから電子の波に旅立って、いたるところで二人のコピーを残すんだ。これでずって一緒に生きていける。永遠にこのインターネットの電子の波が続くかぎり! そう、これが私の『永遠の愛』
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