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十二歳になったその日、ミア・オースティンは霧の立ち込める森に足を踏み入れた。
木の根を乗り越え、湿った枯れ葉を踏みつけながら、思う。
(『人喰いの森』なんて恐れられてるから、どんなに恐ろしい森なのかと思ったけど……視界がきかないだけで、獣も出てこないし、なんだか拍子抜けしちゃう)
逆に言うと鳥などの鳴き声すら聞こえない、不気味なほどに静かな森だった。しかしその程度で怯むようなら、そもそも『人喰いの森』の話を知った上でこの森に入るなんてことはしない。
霧に視界を塞がれているとはいえ、伸ばした手が見えないというほどではないので、障害物があればぶつかる前に気付くだろう。転んだらその時はその時よね、とミアは足の向くままに森の中を彷徨うことにした。
そうしてどれほど進んだだろう。ふいに、視界が開けた。周囲の景色は視認できていなかったので詳細はわからないものの、明らかにそれまで歩いていた森の中とは木々の密集度が違うのがわかった。何より、霧が、完全に無くなってはいないものの、その一帯だけ薄まっていたのだ。
その中心に、彼はいた。大きな大きな、霧に染まったような真っ白な大木を背にして。
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