1人が本棚に入れています
本棚に追加
伝承ではなく、子供を脅かすだけの文句でもなく。本当に『人喰い』が棲んでいるのだと聞いていたから、もっと恐ろしいものを想像していた。ミアの何倍もの背丈があったり、恐怖で動けなくなるような見た目をしていたり、人と見れば襲い掛かってくる凶暴さを持っていたり。
そのどれでもなかったけれど、人ではないというのは一目見た瞬間から感覚が訴えていた。だからミアは、期待に胸を弾ませて言った。
「あなたがこの森の『人喰い』なら、どうぞ――わたしを食べてちょうだいな」
それが、ミア・オースティン――ミアと、『人喰い』のレインの、出会いだった。
* * *
ミアの『お願い』を聞いた赤い瞳の彼は、何かおかしな言葉が聞こえたような気がするけれど幻聴かな、とでも言い出しそうに首を傾げて、しかし返答を待つミアの様子に現実を認めることにしたのか、傾げた首を元に戻すと。
「ぼくは確かにこの森に棲む、人間たちに『人喰い』と呼ばれるモノだけど――きみを食べるのは無理だよ」
そんなふうにばっさりと、ミアの『お願い』を切り捨てた。
「どうして? あなたは『人喰い』なのよね?」
最初のコメントを投稿しよう!