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「次の方、どうぞ~」
先生の声を受けて、次の患者は扉を開いた。
席に座って、自分の症状を告げる。
「先生、僕は世界中の戦争を止めたいんです! 何とかなりませんか?」
「あぁ、それは大変だね。ならこの薬で大丈夫だ。安全性も確認された新薬だからね」
サラサラッとカルテに記載し、お大事に~、と患者を帰そうとするが、帰らない。
「先生! そりゃ僕だって、医者である先生に相談するなんてばかげているとは思います! ですが話を聞きもしないで薬を出して終わりだなんて、あんまりです! 大体、薬で戦争はなくなりませんよ!」
「大丈夫。今まで人類が一体どれほどあなたのような感情に苦しめられてきたか。戦争は恐ろしい物です。しかし人類はバカではない。それに対処できる薬が出来たんですよ。大丈夫、この方法論に従っていれば、明日にはきっと戦争は終わっている」
馬鹿げた話だ。
「先生!」
「そんなに怒鳴らなくても聞こえているよ。
いいかい。今日び、ありとあらゆる場面において、その方法論はぜ~んぶ確立されているんだ。『これにはこれ』、『これならこうすれば売れる』といった具合にね。
そうした方法論の積み上げの結果、『何でも上手くいく薬』が出来たんだ。その科学の結晶を簡単に否定しないでおくれ」
「そんな事言っても……」
「まあ大丈夫。そういう事を言う患者さん向けの薬も開発済みだ。これを飲みなさい。」
患者は納得できない風であったが、渋々診療室を出た。
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