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序
お前の瞳は、左右の色が違っていた。
平素はそうとは気付かぬ。
しかし”しるし”が現れると、右は艶やかな緋色、左は鮮やかな藍色となる。まるで清水で洗われた石のように、つるりと光を受けるまなこの美しさ、さえ。
そうして、お前は小舟の上で海を映した空を見上げ、磯を切る風を受ける。
内海を渡る海鳥の影がお前の上を過って、わだつみに消えた。
「○○○○、鳥居が見えたぞ。つまり、社と鳥居が重なって見える道が参道ということか?」
お前は歌うようにそう訊ねてきた。肩の辺りで禿の如く切りそろえた髪が揺れる。
成る程、陽の光を受け、起立する鳥居の潔いこと。
瀬戸内の海に浮かぶ荘厳な社の、朱色の柱と黒の甍が鱗のように光る。竜宮城が本当にあるならば、その似姿がこの神社ではないか。
揺蕩う波に、兄が舞う青海波と、弟の奏する笙や篳篥、お前が爪弾く琵琶の音が滑ってゆく。
「……美しいの」
そう言って微笑むお前の白い横顔は、なほ柔らかく。彼の日、たしかに
極楽浄土とは斯くあるべし、と。
嗚呼、だのに、
其の時、お前の光は永遠に失われ、お前は右に此岸の亡者を、左に先の常闇を見ることになったのだ。此の現世でなく。何故、その様な罰を受けねばならぬ。お前が何をしたというのだ。
己はお前の目を覗き込む。
この澄んだ玉のような瞳に、此の海は二度と映らないのか。
「……○○○○、泣くでない」
お前の白い頬に、此の両の目から幾つもの水滴が落ちて跡をつくる。
「もう、儂は見るべきものは見たのだ」
小さな手の、お前の細い指が、この頬に、額に触れる。
「なくな」
おぬしの顔は忘れまいぞ、と。
儚く微笑むお前を掻き抱いてやりたいが、既に己の左腕は失われて仕舞った。右腕のみでお前を抱え、己は咆哮した。
寄せては返す細波の、絶え間なく浜に打ち上げられる屍の真ん中で、己は誓った。
けっして、決して違えぬ。
お前との約定だけは、かならず、
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