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何を言ってるのだろうか、この人たちは……? 笑顔だが目は全く笑っていないデミに、そして何も悪いと思わず満面の笑みを浮かべるヘザーに、レティシアは寒気を感じた。
「そうか、そうだな……。普通は長子が後継者になるが、生前に届を出しておけば他の子供に継がせることも可能だ。長子がろくでなしの場合もあるからな」
「ええ、そうですとも。ヘザーはあなたの血を引く正統な娘。当主になる権利はあるはずです。それに、そうなったらヘザーはお嫁に行くことなく、このお屋敷であなたとずっと一緒に暮らせますわよ」
その言葉がダニエルの背中をグイっと押した。
「よし、そうしよう。レティシア、お前はスコット家へ嫁げ。スコットは、息子のマシューは変わり者で嫁の来手がないと言っておった。誰でもいいのなら、お前みたいな愛想のない娘でもかまわんだろう。」
あまりにも本人の意見を無視した話の展開に、レティシアは怒る気力もなくただただ呆れてしまった。
「レティシア、わかったな。」
「……」
「返事は!」
「……はい。わかりました」
ヘザーは、ぱあっと顔を輝かせると席を立ってダニエルの首に抱きついた。
「お父様ありがとう! 私、実はジョナス様が好きだったの! それに伯爵家を継げるなんてとっても嬉しい! お父様、お母様、ずうっとヘザーと一緒にいてくださいね!」
「よかったわねえ、ヘザー。美男美女でとってもお似合いよ。赤毛のレティシアでは随分見劣りがして、ジョナス様が可哀想だったもの」
「そうか、ヘザーは彼が好きだったのか。二人の子供ならきっと美しい金髪で生まれてくるぞ。楽しみだなあ」
……やってられない。レティシアは席を立ち、自室へ向かった。誰もレティシアには声も掛けず、賑やかな茶番を続けている。
(デミは最初からこれを狙っていたんだわ。だから私達を庭へ誘導し、ヘザーを待ち伏せさせてジョナスに会わせた。二人を恋仲にさせてからこの交換を提案するつもりで……)
ジョナスのことが好きだったわけではない。最初は確かに素敵な人だと思った。でもヘザーへの対応を見てそんな気持ちはどこかへ行ってしまった。
(このままジョナスと結婚させられるよりは良かったのかもしれないわ。でも後継者の立場まで奪われるとは思わなかった。伯爵家を支えてきたお母様が亡くなってから半年が経ち、その間私は執事のバーナードと協力して頑張ってきたけれど……もう馬鹿らしくなってきたわね)
この際、あの三人と縁を切って男爵家に嫁ぐのも悪くはない、とレティシアは考え始めていた。
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