王立学院

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 アリスの言葉に背中を押されたレティシアが近寄って行くと、気づいたヘザーが手を振って大声を出す。 「お姉様、ここよ!」  それまで四人掛けの席にジョナスと向かい合って座っていたヘザーは席を立ち、なんとジョナスの隣に移動した。 「ヘザー、反対側に移動しなさい。婚約者でもない男性とそのような近い距離で座るものではありません」 「えー、だって、婚約者ではないけど兄妹じゃないですか。家族なら、これくらい近くても当たり前でしょう?」  ヘザーはまたしてもジョナスに腕を絡ませる。ジョナスは腕を抜こうという素振りは見せるが顔は嬉しそうだ。どんなに綺麗な顔をした男性でも鼻の下が伸びれば情けない顔になるものね、とレティシアは冷静に考えていた。 「まだ結婚していないのだからその理屈は通用しません。こちらに移りなさい」  ヘザーは腕をほどきしぶしぶ席を移ったが、いざ三人になると、その場はシン……と静まってしまった。さっきまであれほど楽しそうにしていた二人なのに。  ジョナスは気まずそうだし、ヘザーは膨れているし、レティシアは元々話上手ではない。  沈黙に耐えかねてか、ヘザーは席を立ってどこかへ行ってしまった。 「……二人で何を話していらしたの?」 「あ? ああ……たわいもないことだよ。学院のことなどをね、教えてあげていたんだ」  そしてまた沈黙。ジョナスは明らかにヘザーを目で追っていた。ヘザーは、二、三人の男子生徒と一緒に食事をとることにしたようだ。 (ああ、そんなことをしたら変な噂が立ってしまうのに……帰ったら注意しておかなくては)  令嬢としての嗜みを覚えてもらわないとポーレットの名に傷がつく。  苛立つレティシアとは対照的に、ジョナスは甘い表情でヘザーを見続けていた。 「彼女はとても気さくで自由だね。やはり平民として育ってきたからだろうか」 「そうですね。義母(はは)は基本的な礼儀作法は教えてあると言っていましたが」 「貴族のしがらみに縛られている僕らには、彼女の奔放さが眩しく感じるよ」  せっかく二人でいるのにヘザーの話ばかり。レティシアは砂を噛むような思いでジョナスの横顔を見つめた。
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