洞窟にて

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洞窟にて

「呪われよ!」  長老のしわがれた一喝が、洞窟の壁に揺るがしました。  わたしは震えていました。長老はこの村の巫女であり、精霊たちの代弁者であり、星の巡りを読み解く占い師であり、成人するこの年まで村から出たことのないわたしにとって世界のすべてでした。その長老から吐かれた呪詛に、わたしは歯の根が合いませんでした。  わたしの手を、そっと握る人がいます。  その人は、わたしを長老からかばうように立っていました。麻の服をまとったわたしと違い、外の世界のこざっぱりとした服に身を包んでいます。工場で作られたというその布は、長老からすれば自然の営みから外れた非難の対象だったでしょうが、その無機質さはわたしを守る障壁のように感じられたのでした。  その人は、肩越しに振り返って、安心させるように微笑みました。
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