洞窟にて

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「ああ、お前たちに外での暮らしを許すのではなかった。自然を見よ、どんな動物も、雄と雌で交わって子を成す。男女で愛し合うのが自然の姿。その理に逆らうなどと……」  長老の言葉が向けられているのはわたしではありません。  その視線の先にいるのは、二人の男性でした。どちらも外の世界の服を着ています。そのうち一人は、手首に翠の石のついた腕輪を嵌めていました。  この方が、フシムイ様。わたしの運命の相手です。  村では生まれてから三年の間に、長老によって──正確には、長老が伝え聞いた精霊の言葉によって、運命の相手が定められます。女性は多くの時間を費やして、二人が生涯身につける腕輪を作るのがならわしでした。フシムイ様と同じ腕輪を、わたしも身につけていました。  フシムイ様は、隣に立つ男性としっかりと手を握り合わせています。やさしく手を握られているだけのわたしと違い、お互いの強固な意志で握りあっているのがはっきりと伝わってきました。 「それは誤った認識ですね」  フシムイ様は、長老にむかって肩をすくめました。震えあがっているわたしからは信じられないことです。
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