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本心
しばらくして、小夏が少し落ち着いたのか、ポロポロと壁がはがれるように話し出した。
「……私、借金あるの」
「うん、さっき言ってたわね」
「それで、彼、に負担かけたく、なく、て……」
……。
「彼、プロポーズ、してくれようとしてた、みたいなの……」
……気づいてたのか、小夏。
何ヶ月も前から指輪を用意していた。この日のために。
「それで、だから、じぶ、でもよくわか……、ないけど、借金あるの、知られ、たくなかったし、愛想、尽かされる、のもこわかった、し……」
落ち着いたと思ったのに、何か話すたびにまた泣き声が混ざる。
小夏、そんなこと考えてたのか。俺は、小夏の気持ちを知ろうともしないで、ただ自分だけが落ち込んで悲しんでるように思ってた。でも、小夏も同じだったんだ。
「プロポーズ断ろうとは思わなかったの?」
「ことわ、れない、だって、春久、なにもして、ないもん……」
「それで、わざわざこんな手の込んだことを?」
小夏の返事はない。いや、相づちでも打ってるんだろうか。
小夏、小夏、小夏。
どうして気づかなかったんだろう。小夏は俺のこと嫌いになったんじゃないんだ。むしろ、俺のことをすごくすごく想ってくれてる。
「ねえ、小夏。このままほんとに別れたままでいいの?」
「……よく、わかんない。春久に負担かけたくない……」
「彼氏のことじゃなくて、あんたのこと聞いてるの。あんた、このまま別れたいわけ? それで後悔しないわけ?」
すると、溜まっていたものが勢いよく流れ出すように、小夏はぶちまけた。
「だって、しょうがないじゃない! 私だって、別れたくなんてないよ! でも、春久に言ったら、春久が何て言うか……。……でも、ほんとは、結婚したかった! 春久から、プロポーズ受けたかった……! でも、でも……。う、うう……」
泣き叫ぶ小夏。こっちの部屋まで聞こえてる。
今すぐ抱き締めてやりたい。そんな衝動に駆られるも、俺は動き出せない。
だって、今俺が出ていっても、きっと小夏はまた心を閉ざしてしまう。俺に負担をかけないように。
小夏、俺を呼んでくれ。呼んでくれたら、すぐにでも抱き締めてやる。大丈夫だって、俺がいるからって、何度でも言ってやる。
だから、呼べ!
「う、う、はる……、はるひさあ……!!」
それが俺の引き金になる。
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