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疑惑
今日は全然仕事に集中できなかった。上司からは怒られるし、同期からはやたらと心配されるし、隣のデスクの野木さんからは大量のお菓子を頂いた。
「はあ……。どうすっかな」
帽子なんて拾わなければよかった。そしたら少なくともこんなに遅くなることも、変な誤解を与えることもなかったのに。
いや、そもそも電車を乗り過ごしたことがダメだった。
……いや、というよりもあの時ジュースなんか飲むべきじゃなかった。ちょっと珍しいもの好きだからって、誘惑に負けた俺が悪い。あれ、何か入ってたんじゃないよな。
「はあ……」
今まで二人で住んでいたあの家に、今日からは一人で住むことになるのか。
……嫌だなあ。
小夏、少しくらい話聞いてくれてもいいのに、何で出てったりするんだよ。
会社を出て俺は駅に向かってとぼとぼと歩く。
駅が見えてきたとき、ふと、右側に伸びている道が気になり、辿っていくと、居酒屋があった。気になる。けど、何で気になるのかわからなかった。
とりあえず、中に入ってみる。
若い店員が出て来て、奥から二番目の部屋へと案内される。
部屋に入って座布団に座る。
とりあえず、生ビールを頼む。飲まないとやってられない気分でもあるから。
注文を済ませて、一息つくと、隣の部屋から笑い声が聞こえてくる。
俺はこんなに落ち込んでる気分だっていうのに、陽気に笑うその声に少々苛立ちを覚える。
いや、この声は、聞き覚えがある。
「ふふ、うまくいったわ」
「よかったね、小夏」
……小夏? 何でここに。誰かと一緒か? けど待てよ。この声も何か、どっかで聞いたような。
「小夏、彼と別れたいって言ってたもんね」
「うん、やっとって感じ」
やっと? え? どういうことだ?
「まさか思わないわよね。ジュースに入れた薬のせいで自分の帰りが遅くなったなんて」
何? え? 何の話してんだ?
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