未来予測AI、チームアベリア保育園

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 乳幼児を主に預かる私立アベリア保育園の主任に就いて、三年目の夏。  出勤し朝のルーティンをこなした私は、いつものようにパソコンを立ち上げた。  他の先生方も続々と出勤を始め、追いかけるように園児たちの登園が始まる。  先生方に挨拶を返しつつ、パソコンのAIで今日の安全チェックを始めた私は、思わず「えっ⁉︎」と声をあげた。  信じがたい光景が映っている。とても一人では抱え切れない大きな問題が。 「ののか先生、どうされました?」  背の高い拓馬先生が、ほんのり茶色い短髪を揺らし穏やかに見下ろしてきた。 「拓馬先生! ちょっとこれ……見て下さい」  他の先生に開示する前に、それを拓馬先生に見せようと思ったのには理由がある。  一つには、拓馬先生が副主任であること。さらに施設長が出張の今日、職員の中で唯一の男性であること。何より拓馬先生が、このAIの開発者だからだ。  画面が映し出すのは、『本日の園の予想映像』。  拓馬先生は以前プログラマーをしていた経歴がある頭脳派で、保育士のかたわら、園に役立つAIの開発を手掛けて下さっている。その最たるものが、この『AI予測シミュレーション』だ。  その名の通り、園内で起こる出来事を予測して映像化してくれる優れもので、 『このAIには、園に関わる方々や、園から半径1キロ圏内に住む人と物の行動パターンを数値化したものが組み込まれています。その行動が、天候や世界情勢、あるいは気分によって、本日どのような影響を園にもたらすかを予測することができます』  というのが拓馬先生の説明だ。 『ですがこちらはまだ開発途中で、予測が外れたり、情報を取りこぼすこともあります。また最大の難点は、実際に物事が起きる数時間前になるまで、正確に近い予測が立たないことです』  確かにそこが難点なのだけど、たとえ数時間前でも、あらかじめハプニングを予測できたお陰で助けられたことは、今までに何度もある。  日常的には子供同士のケンカを未然に防げたり、発熱しそうな子を事前に保護したり。大きなことでは、それこそ登園途中に交通事故に遭いそうになった児童を助けた実績もある。  そんな優秀なAIが、とんでもない未来予測を伝えてきたのだ。
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