シンギュラリティ・クロック

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「リオ、知ってるか?メトロポリスでは毎年独立記念日に花火が上がるんだ」 「じゃあ、レイ兄ちゃんの病気が治ったら、二人で見に行こうよ」  独立記念日の夕暮れ、鈍行列車がメトロポリスの中央駅に到着する。少年リオは、電車を降りると摩天楼を見つめた。 ただ一つの願いをかなえるために、丸二日電車に揺られて遠い田舎町からやってきた。  技術大国であるこの国のメトロポリスには世界の叡知が集結している。中でも、「摩天楼」を固有名詞にしたと言わしめる世界一の高層ビルにはありとあらゆる研究施設を内包していた。最先端の技術は全て摩天楼に集まると言っても過言ではない。特に顕著だったのはAI産業である。摩天楼のサーバーが有するAIに関する技術・知識・データを活用し、世界をひっくり返すような研究が行われていた。    摩天楼の医療事業部では、AIによってあらゆる病気の治療法が次々と確立されている。医療水準は世界でも群を抜いて高い。最新医療を受けられる環境の整った大病院があった。  人は皆AIに期待していた。技術革新が起これば、現代社会で不可能と言われていることも可能となる。ワープ、パイロキネシス、タイムトラベル。夢のような技術の源が摩天楼の中にはある。  摩天楼の最上階にはその高さ故、晴れた日にしか見られない時計がある。それは“シンギュラリティ・クロック”と呼ばれていた。AIが人類を超える瞬間を指し示す時計で、十年後の冬の朝八時を表示していた。 「僕が、やるんだ」  そう呟くと早速、リオは駆けだした。その腕をレイが掴んで制止する。 「待てよ、リオ。今年の花火は1時間早いんだ。ここが特等席だから、よく見てるといいよ」 「レイ兄ちゃん……」  レイに引き留められたリオが見つめた先で、轟音とともに真っ赤な花火が上がった。
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