シンギュラリティ・クロック

6/11

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
 タイムマシン試作機が動き出す頃、リオは若くして摩天楼の重役になった。政治的な思惑が交錯し、何人かの人間が謎の失踪を遂げた。 一方、この国には数多くのAIが存在するが、RAYもまたその中でNo.2の座についていた。ヒエラルキーの頂点に君臨するAIは国防を司っていた。  リオの目はもう少年の頃の目ではない。未来ではなく、過去を見つめていた。世界はおかしな方向へと動き出している。シンギュラリティの際に一部で危惧されたAI対人間の全面戦争は起こらず、AIは人間に対して極めて友好的であったと言うのに。国家の首脳が暗殺されるなど、世界中できなくさい事件が多発した。  タイムマシンのエネルギー源の研究中に発見された物質は、水爆をも凌ぐエネルギーを放出するとして世界中で話題になった。発見したAI“RAY”の名から“Rエネルギー”と名付けられた。Rエネルギーの兵器転用をめぐっての条約の整備は追いついていない。  こうなれば、ますます人間同士の威嚇行動や一歩間違えれば戦争に発展しかねない行動が各地で見られた。Rエネルギーによって、長年夢とされてきた遠隔発火や瞬間移動、空中浮遊が容易になったからである。  人間はあまりに感情的だとAIは判断し、国家間のやりとりは全てAI同士が行った。その言語は人間には理解できない。政策はAIが決め、今や国のリソースのほとんどは軍事産業に費やされている。しかし、軍部のトップのAIとRAYが懇意であったため、タイムマシンの開発リソースが残されていた。  それをよく思わない軍部の人間を、政府の中枢にコネクションを持ったリオは処刑した。邪魔をする者は消せとRAYが指示したから。軍事AIもこの粛清を黙認したばかりか、積極的に加担した。  レイの病気に関する研究費は、軍部の許可は取れなかったが、リオが秘密裏に捻出した。これもRAYが裏で手を引き、多くの血が流れた。  すべてがリオにとって都合よく進んでいた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加