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二度目は、カレッジの夏祭りだった。 宇宙館の展示の受け付けに彼女はいた。背が高くてすぐにあの時の人だと気づいた。彼女も僕に気づいて宇宙館を案内してくれた。僕たちは宇宙館をまわりながら会話を続けお互いのことに詳しくなった。僕も彼女もカレッジの後の進路は決まっていて、僕は旧市街の発掘調査をすることになっていてカレッジのあるシティから随分離れたところに住むことになる。彼女は、宇宙開発を仕事としてこれから宇宙開発センターと宇宙基地で研修を行い、火星の入植事業に携わることになるんだそうだ。地の底を掘る僕と、宇宙を歩く彼女と、僕たちの違いの大きさに正直僕はがっかりした。同じように古典文学を愛好する僕たちにはあまりに大きな乖離があり、それはきっと埋められないなと感じたからだ。 しかしそれとは裏腹に、入ったカフェで僕たちが選んだのは、キラキラしたラムネゼリーとエメラルドグリーンのクリームソーダで全く同じものだった。これはなかなか酔狂なチョイスなのにこんなことが一致するとはね。僕たちはこんなに違うのにこんなに似ている。親しげに会話し否定できないくらい楽しく過ごしながら、僕はどこか辛さを覚えた。話していて、いや沈黙していても、こんなに傍にいてしっくりきた相手はいないと感じながらもそれは興奮や高揚感ではなくどこかクールな感触だった。空にはライムグリーンの第三ムーンがかかっていた。第二ムーンは僕たちのエリアからはあまり見えないのだけど第三ムーンは綺麗に見えることが多い。これらの人造ムーンは宇宙開発のための基地として建設されたもので、この第三ムーンが彼女の拠点の一つになるのだそうだ。彼女は門外漢の僕に丁寧に教えてくれた。でも、そのことは、僕たちには未来なんてないよと言っているかのように聞こえた。
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