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1・乃惠瑠の幸せ
「――今や世界人口の3割がアンドロイドと家族関係あるいは恋人関係を結んでいると言われています。今回の事件は我々人間がアンドロイドに、より『人間らしさ』を追求した結果に起きた惨事であり――……」
あたしはチカチカと光る電気で彩られた街を零音と手をつないで歩いていた。
ビルにデカデカと掲げられたモニター画面では評論家たちが深刻そうに議論を交わしている。
それを観ながら3人で歩いている18歳くらいの女の子のうち2人が口々に言った。
「アンドロイドが嫉妬で夫の浮気相手殺したって怖すぎるんだけど」
「嫉妬はしても人間には危害を加えないようにプログラムしてあったのに、ドラマで嫉妬して殺人することを学習しちゃって自分でプログラム書き換えたんでしょ?」
「ていうよりアンドロイド相手だと結婚届は出せないから法的には夫婦ではないよね?」
「そもそもアンドロイドと結婚って子ども出来ないから意味なくない?」
そのとき黙って話を聞いていたもう1人の女の子が口を開いた。
「そういう人たちは子どももアンドロイドでいいんじゃない?もしくはいらないか」
彼女たちはああだこうだと言いながら人混みに紛れていった。
感じ方は人それぞれだろうけど、あたしは零音と夫婦という形でいることに満足している。
だって本物の人間と違ってあたしの要望を全てプログラムしてあるから性格に嫌なところがひとつもないし、どんなあたしでも受け入れてくれるから気が楽で安心だし、多額のローンは出来たけど生涯で1番いい買い物をしたと思っている。
「ねぇ、零音は子ども欲しい?」
あたし好みのクリッとした大きな目に筋の通った鼻にほどよい大きさの唇。そして玉のように綺麗な肌をした零音はあたし好みの低音ボイスで答えた。
「……僕には子どもをつくることは出来ない……」
「分かってるよ。もし欲しいなら零音に似た人から人工授精をしようかと思って」
零音の表情が曇り、悲しげな声を出した。
「僕はこの世で僕しかいない。僕に似た人でもそれは僕ではない」
あたしは心がチクンと痛んだ。
「ごめんね……!酷いこと言って……!あたしは零音さえ居てくれればそれでいいの……!!子どもは居なくてもいいよね!!」
アンドロイドは人間じゃないってみんな言うけどこんなに感情が豊かで繊細なんだから人間と変わらないじゃない。
あたしは零音から毎日いろんなことを教わっている。心があるならそれは人間と変わらないと思う。
零音の手は大きくて温かい。普通の男の人と何も変わらない。
けれどもどの男の人より完璧で零音との生活を始めてからは、人間の男の人と付き合ったり結婚したり出来る女の人たちをすごいと思うようになった。
だって人間の男の人って多かれ少なかれ気を遣わないと駄目だし、浮気や別れもあり得るし、その割に完璧ではないからこちらにも多少のストレスはかかるし。
「零音、世界で一番大好きだよ!!」
あたしは零音の腕に抱きついた。
零音もそんなあたしを見て優しい笑顔になった。
「僕も乃惠瑠が世界で一番大好きだ」
零音はあたしの理想そのもの。
友達関係も恋も家族も全てが上手くいかなかった27年間の人生が、零音との生活を始めてからは毎日が幸せだと思えるようになった。
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