菜々子と睦子

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菜々子と睦子は仲が良かった。 菜々子はとても思慮深く 睦子はとても運動神経が良かった。 「むっちゃんがいなかったら何もできなかったわ。」 「ななちゃんがいなかったら何も知らなかったわ。」 二人はそう言ってふふふと笑った。 それは運命の日。 二人の運命が決まってしまう日。 あの日、二人は聞いてしまった。 大人たちの話を聞いてしまった。 二人は一緒にいられないんだって・・・ 二人はいつかくる別れは そう遠くない事を感じていた。 大人たちの策略で 少しずつ会えない日が増えていく。 二人は思い出の為に約束をした。 今度会った時に一緒に料理をして 美味しいものを食べようと。 久しぶりに二人で過ごす時間は とても幸せで心を温かくした。 時間がない二人のために 菜々子は手軽で美味しい料理を効率よくガイドした。 それに応えて、睦子はテキパキと鮮やかに動く。 二人で美味しいご飯を食べたかった。 笑って過ごす思い出が欲しかった。 と、叫び声がして 菜々子が身を縮めると 睦子は驚いて、包丁を持つ右手が 内に向かって空を切った。 その拍子に刃先が手首の内側を横切り 鮮血が滴った。 「この子  急にキッチンに行ったと思ったら  包丁を持って笑ってるんです・・  私、咄嗟に  危ないって叫んだら  この子、手首を切りました・・。」 母親は、我が子ながら狂気じみた一人娘が 恐ろしくて何度も精神科医に相談していた。 「お母さん、総合失調症は回復することができます。」 そう医者に言われ、兆しが見えてきた矢先だった。 「むっちゃん、ごめんね。私が驚いちゃったから・・」 「ななちゃん、ごめんね。私が手首切っちゃったから・・」 病室に力なく座る少女の内側で 菜々子と睦子は共存している。 運命の日・・ いよいよ明日・・ ロボトミー手術が行われる・・・
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