紳士の煩悶(はんもん)

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紳士の煩悶(はんもん)

 背中が痛い。  さっきサヴィトリに踏みにじられたところだ。その時の光景を思い出すだけで身体が打ち震え、自然と顔がにやけてしまう。  カイラシュがサヴィトリの背中を撫であげたのがそもそもの原因だった。  サヴィトリは不意打ちにびくりと身をすくませ、妙に可愛らしい悲鳴をあげた。怒りと羞恥で顔を真っ赤にし、カイラシュのひざ裏に蹴りを叩き込む。それで大きく体勢が崩れ、カイラシュは地面に這いつくばる格好になった。  あとはいつも通りに、罵詈雑言を浴びせかけられながら踵で背中をにじにじされた。  赤面するサヴィトリを見ることができただけでも大収穫だ。  カイラシュは、自分は決してMではないと思っている。  サヴィトリから(ここ重要!)心身を虐げられるのがこの上なく好きなだけであって、基本的に痛いのは嫌いだ。どちらかといえば性質はSだろう。  時々、衝動のままに組み伏せたくなる。が、今はまだ我慢だ。中途半端に牙を見せると警戒されてしまい、後々やりづらくなる。 「私はドSです」と公言してまわる奴にドSはいない。  サヴィトリが暴力行為に及んでいる間は、サヴィトリはカイラシュのことだけを見て、考えている。それが嬉しい。歪んでいる自覚は十二分にある。
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