序 四角の中心

1/2
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ

序 四角の中心

 沈黙というのは不意に訪れる。  どんなに楽しい会話をしていても、言葉の途切れたほんの少しの隙間に忍び入る。  たき火のはぜる音と微かな虫の鳴き声、冷たい夜の風。さっきまでは聞こえなかった音が、今は鼓膜を震わせる。  サヴィトリは携帯食の硬いパンをスープにひたしながら、たき火を取り囲むように座っている四人にそっと視線をむけた。  ナーレンダは眉間に皺を寄せ、硬いパンをそのままかじっていた。いらいらしている時のナーレンダはわかりやすい。  ヴィクラムはいつも通りの無表情で、自分の荷物をあさっている。おそらく酒でも探しているのだろう。  カイラシュは怪しく身悶えしていたので、すぐに視線をはずした。こういう時は特に、関わるとろくなことにならない。  ジェイは困ったように眉尻をさげ、スプーンでスープをかきまわしている。最近のジェイは、へらへら笑っているか困った顔をしているかのどちらかだ。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!