序 四角の中心

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(……(タイクーン)の伴侶か)  パンを咀嚼していると、サヴィトリの脳裏にそんな単語が浮かんだ。  即位後、最も厄介な問題のうちの一つだ。血縁上の父である現国王は別として、他の官僚は跡継ぎが生まれるまでの間に合わせにしか思っていない。  どこの馬の骨ともわからぬ輩と結婚させられるより、できるならこの中の四人のうちの誰かがいいと思う。もちろん、同意してくれるのなら、だ。  四人のうちの誰かであるなら、いっそ偽りの婚姻でも構わなかった。嘘の関係だったとしても気心が知れている人間の方が良い。 (頼るとするなら、誰だろう)    四人それぞれに好ましく、一人に絞ることができない。性格も出自も違う四人だが、みんないざというときに頼りになる。  しかし、この人でなければだめだ、という決定的な何かがなかった。  そう考えると、自分が四人に対していだいている感情は恋愛とは別のものなのかもしれない。 (贅沢な悩みだ)  サヴィトリは心の中でこっそりと自嘲する。  今はただ、こうして五人でいることが楽しい。しかし、いつまでもこのまま、というわけにはいかないだろう。いずれは離れる時が来る。  そもそもサヴィトリが良いと思っていても、相手も同じ気持ちかどうかわからない。好いていてくれる保証などどこにもないのだから。  スープをすすると、何か硬いものを噛みつぶしてしまった。胡椒の粒かもしれない。独特の辛味がつーんと鼻を通り、涙があふれそうになる。 (ばちが当たったかな)  サヴィトリは目頭を押さえ、空を仰いだ。
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