三十路の懊悩(おうのう)

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三十路の懊悩(おうのう)

 頭が痛い。  どちらかと言えば比喩的な意味だが、実際にずきずきと痛むような気もする。  ナーレンダは気分をまぎらわせるようにパンにかじりついた。バゲット以上に硬い。だが、今はこの硬さがちょうどよかった。甘い物の他に、歯ごたえや噛みごたえのある物も好きだ。頭蓋骨全体に振動が響く感じが良い。  そういえば以前、同僚のル・フェイと一緒に食事をした時、鉄分が不足しているのではないかと指摘されたことがある。無性に何かかじりたくなって、仕方なく飲み物のグラスに入っていた氷をばりばりと噛み砕いたせいだ。  ル・フェイは時々、胡散くさい心理学者のように鬱陶しい。その仕草は情緒不安定な時にするだとか、目線を下方に向ける時は何かやましいことがあるだとか、知った風なことを言う。しかもそれがかなりの確率で当たっているから嫌だ。  嫌な顔をすると、今度は慢性的なカルシウム不足ですね、と言われた。短気な性格なのは言われなくてもわかっている。余計なお世話だ。 (一生治らないんだろうな、この頭痛は)  ナーレンダは息を吐き、眉間の皺を指で押し伸ばした。  考え込むと無意識のうちに顔をしかめてしまう。よくない癖だ。幼い頃一緒に暮らしていたせいか、サヴィトリにもうつってしまっている。
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