三十路の懊悩(おうのう)

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 ナーレンダの頭痛の原因は、いつだって一つだった。  頭痛の種に目をむけると、一生懸命にパンを頬張っていた。リスのようで可愛らしい。容姿はどちらかというと猫系だが、仕草の一つ一つをとって見るとげっ歯類っぽさもある。 (どうして、よりにもよってこんな一癖も二癖もある奴らを無自覚にたらし込んだかな)  ナーレンダは忌々しげにパンを噛みちぎった。  サヴィトリは絶世の美女、というわけではない。ひいき目に見て平均よりはやや可愛いが、体型は女性らしさからはほど遠い。  性格はがさつで暴力的で無神経で無鉄砲。もてる要素は何一つない。 (『十年経って君のもらい手が誰もいなかったら、公共の福祉のために僕が尊い犠牲者となって、仕方なく君をもらってやってもいい』、か)  ナーレンダがサヴィトリを置いて家を出た時のセリフだ。我ながら恥ずかしいことを言ってしまったと思う。  十年くらい放っておいても大丈夫だと思った(体型の発育不良を予見していたわけじゃあないけれど)。  自分以外にあんな面倒くさいのをもらう気になる奇特な奴など現れるわけがない、と。  そもそもが大いなる誤算だった。
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