酒乱の動揺

1/4
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ

酒乱の動揺

 胃が痛い。  胃もたれとも胃酸の出過ぎとも違う。  世の中には精神的な理由で胃をやられる者もいるというが、おおよそ自分には無縁の話だ。大抵のことでは心は動かない。隊を束ねる者として、動揺は禁忌の一つだ。  ヴィクラムは自分の荷物をあさり、中から薬効のある薬草や実を漬け込んだ薬酒を取り出した。  傷や身体の不調はすべて酒で治す。  ナーレンダには馬鹿にされたが、ずっとそうしてきたし、それで治してきた。そういう体質になってしまっているのだから仕方がない。  瓶の蓋を開けると、アルコールと生薬の混じった独特の匂いがあふれてきた。  隣に座っているジェイが顔をしかめるのが視界の端にうつった。慣れていない者にはきつい匂いかもしれない。  瓶に直接口をつけ、適当な量を胃の中に流し込む。すぐに、胃の腑がかっと熱くなる。これだけで胃の痛みがまぎれた。治ったかどうかは別段問題ではない。  飲み口を布でふき、薬酒をしまう。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!