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宝くじに五億当たったのが二十六歳だった十年前。映画館にトレーニングルームに温泉、それと身の回りを世話してくれる最新型AI執事。快適な住環境を整えた俺は、外に出るのが次第に億劫になった。
数えてみるとここ七年間、家から一歩も出ていなかった。
元々、俺は天涯孤独で人付き合いも必要最低限だった。人間嫌いではないのだが、金持ちになった途端に近付いてくる人間など信用できるはずもない。誰もが金の亡者に見えた。
そうなるのは必然だった。
AI執事はいい。余計な詮索も、裏切りもない。多少、感情表現に違和感がはあるが、学習効果で会話もうまくなった。執事でありながら友人という役割もこなし、孤独を感じさせない。
今日だって執事兼友人は「楽シンデ来イヨ」と明るく俺を見送ってくれた。
引きこもり生活に一切ストレスを感じていないせいか、この十年、病気ひとつ患っていない。俺ほど当選金を有効に使えている人間は、そういないのではないだろうか。
けれど、近頃、映画を見てもドラマを見てもイマイチ心が動かされない。自分がつまらない人間になったのか、つまらない世の中になったのか。
受動的なのが悪いのかと思い外に出てみたものの、俺は困惑していた。どこに行けば楽しめるのかがわからない。
しばらく見ない間に、街はずいぶんと様変わりしていた。人出はそれなりにあるものの、不思議と活気が感じられなかった。
目的地が近付いてくるにつれ、時折、そのお化け屋敷に行ったと思われる集団とすれ違う。みな一様に満足げに言葉を交わしていた。
「ぼくらにはとても思いつかない」
「予想を裏切られた」
「勉強になったよ」
「緻密な計算がもたらすもの。私たちに足りないものが分かった気がしますね。この経験を持ち帰って、今後に活かさなければ」
老若男女とはいかないが、少年から老年、男女の偏りもない。
これだけ幅広い客層に受けるお化け屋敷とはどんなものだろう。
否応なしに期待が膨らんでいく。
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