ゲート

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 洋館をモチーフにした商業ビルの前で立ち止まる。  ここには昔、来たことがある。二十年以上前、俺がまだ小学生の頃の話だ。小さなホールと複数の飲食店、衣料品店、雑貨屋、ゲームセンターが入っていた。  当時はそれなりに賑わっていたと記憶しているが、時の流れは残酷だ。営業中の看板よりも、テナント募集中の広告の方が目立つ。  それでも、無駄に豪勢な正面階段を行き来する人影は多い。  もしかしたら、ここ十数年で一番の盛況かもしれない。そう思うと、お化け屋敷に対する高揚感だけではなく、安堵に似た感情も加算された。 「やっぱり、人間対AIという組み合わせが良かったよね」  すれ違う人の言葉に心の中で頷く。  そう。人対人であれば、お化け役が客に接触するのはご法度だ。驚かすためと言ってもセクハラだと言い出せばキリがないし、驚いた客がスタッフに危害を加える可能性もある。無用なトラブルを避けるためには仕方がない。  それが人対AIであればクリアできる。宣伝の中で言及されていた訳ではないが、それこそがこのお化け屋敷の肝のはずだ。  お化け屋敷のある二階に辿り着いた俺は、入場ゲートの大きな看板を仰ぎ見て息を飲んだ。  廃病院の写真の上に、掠れた文字でこう書かれている。 ――医療ミスが×因で潰××病院から移設した本物の手術室、医療器具。そこにあるのは血×××た恐怖――  十人ほどの列の最後尾に並び、俺はこれから体験するであろう恐怖に思いを馳せた。  薄暗く、おどろおどろしい廊下を突き進む。肩に手を置かれる、足を掴まれる。どこに何が潜んでいるのかもわからない無音の手術室で、ぼんのくぼを撫でられでもしたら悲鳴を上げてしまいそうだ。 「お待ちください、お客様」  やっと自分の順番が来た。そう思った瞬間、俺は男に呼び止められた。
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