鳥とノートと私

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 例えば、トマトを見たことがあっても、トマトがどう育つのかは知らない。だから、収穫寸前のトマトの絵を描いた。赤く熟れた身がはちきれそうになっている瑞々しいトマトだ。  美味しそうに描けたなと思いながら、次に太陽を仰ぎ見て大きな黄色い花を咲かせる向日葵を描いた。暑い日差しの中、生き生きとした表情を見せる向日葵。夏を象徴する向日葵は、鳥よりも遥かに大きくたくましい。やがて、たくさんの種をつけ生物に食べられ糧となる向日葵を、その次のページに描いた。だって、向日葵の種が大好きな子のおやつになるだろうから。  そして、水浴びのできる広い噴水を描き、あの子の好きな野菜を植えた畑を描いた。次々に、思いつく好きなものを描いて、最後に私は鳥籠を描こうとして筆を止める。  もう、鳥籠は要らないだろう。  このノートの中で、あの子は自由なのだから。天敵もおらず、好きなものに囲まれ暮らす。でも、残念なことに私はそこにいないのだけれど。私もそこに置いてもらえる位あの子に好かれているといいのに、なんてことを思う。
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