アルゴリズムの恋人

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 自動会話型AIの仮称『アイ』が開発されたのは、今から五年前のこと。  仮称と呼ぶのは世間が便宜的に『アイ』と名付けただけで、このAIに公式の名前がつけられていないからだ。『アイ』はそれぞれによってその呼び方も、容姿も違えば、声も違うし、知能さえも違う。知らないこともあれば、知っていることもある。人間と同じように完全ではないもの。  どうしてそんな不完全なAIが開発されたのか。  それは亡くなった人ともう一度話をしたい、という人々の願いが始まりだった。  ある脳科学研究所はその願いを叶えるべく、人間の膨大な記憶を圧縮してデータ化し保存するシステムを構築する実験を始め、それに成功した。SF映画やドラマでしかできなかったことを可能にしたその研究所は世界から賞賛を浴びた。  記憶をデータ化できる対象になったのは寿命が残り僅かな人達だけだった。脳が死んでしまう前に記憶をデータ化しておき、当人が亡くなった後、その記憶データを本人そっくりの3Dアバターに埋め込む。  そうして産まれるのが、これまでの疑似人格のAIではなく、データ化した記憶をベースに作られた人間同様の人工知能『アイ』だった。  『アイ』は急激な勢いで世界に普及していった。永遠の命だと賞賛する者もいれば、故人の墓を荒らすようなものだと酷評する者もいた。しかしそういった酷評した人の中にも『アイ』に手を出す人はいた。  その理由は偏に、亡くなった人と会話をしたいという願いは誰もが持つ共通のものだったからだろう。
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