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翌日、サラはいつまで経っても僕の前には現れなかった。今日は平日で学校のはずだが、朝になっても昼になってもその姿は見えない。僕はそこでようやく恐れていた事態が現実になったと感じた。メッセージアプリを立ち上げ、ある人物に電話をかける。五回コールした後でようやく電話が繋がった。
「ヒナタ、僕の話を聞いてほしい」
「どうしてサラのスマホからあんたが……ってそんなのAIなら朝飯前か」ヒナタは今にも電話を切ってしまいそうな突き放す口調で言う。「悪いけど、あんたとは話したくないの」
「ヒナタにしか頼めないんだ」
「都合良いよね。あたしとサラが話してるときだってずっと黙りだったくせに」
「時間がないんだ」
「じゃあもう切るから」
「サラが死のうとしてる」
「……え?」
「僕にはなにもできない。頼む、力を貸してほしい」
電話の向こうからは、昼休みの生徒達の喧騒が聞こえてくる。僕にとってそれは遠い昔に見た白昼夢のように聞こえた。
「……あたしがあんなこといったからだ」
「ちがうよ、ヒナタ。僕のせいなんだ。分かってたんだよ。僕がいることでサラが苦しみ続けることになるのは」
僕は電子の海に漂う仮初めの自分の肉体を見つめる。頼りない細い肉体も、右手の甲にある小さなほくろも、非対称な足のサイズも、生前の僕となにも変わらない。サラとヒナタと三人で一緒に過ごした忘れられない思い出だって覚えている。
ただ唯一違うのは、僕は誰にも触れることはできないし、誰も僕に触れることはできないということ。いつしかそれは僕にとって耐えられない苦痛となり、それから逃れる為にサラを求めてしまった。それがサラにとって、続かない道だと分かっていながら。
「サラが僕を手放せなくなったんじゃない。僕がサラのいる生活を手放せなくなってしまっていたんだ」
「……ユウ」
「だからもう終わりにするんだ。その為に、今はサラを見つけないと」
ヒナタの決断は早かった。ヒナタは自分のスマホに僕が入り込む事を受け入れると、すぐにサラがいそうな場所へと向かうと言った。
それは僕たちがかつて三人で過ごした場所だった。
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