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プロローグ
「なぁ、ここに何をしに行くんだ?」
まだこれから大きくなる筈の手を離れないギリギリの強さで握って、僕は白くて巨大な建物の中へ吸い込まれるように入っていく。
「......お別れをしに行くんだ」
ここは、最終処理場。
痛みもなく眠るようにその生涯を終えられる施設だ。ここに来るのは”祝福”を受けた老人が多く、今この瞬間も若い人は僕だけだ。まして、子供なんて来るところではない。
「ここ、雲母はキライだ。帰っていいですか?」
「ついて来てほしい」
僕を見上げる雲母ーー僕と最早無関係ではない少女の手を強く握る。
この社会はAIと倫理図鑑の2つの判断から統治が成り立っている。その両方が彼女の生をここで終わらせることを推奨していた。
(AIによる診断では、この子は遺伝子の影響で99%の確率で1年以内に多臓器不全になり動けなくなる。そして、苦しまずに生を終えることは倫理図鑑に記された善いことだ。だから僕が今、楽にしてあげることは間違いじゃないーーだが、僕は)
白いドアの前に居る白衣を着たホログラムが僕達を迎える。
『ネオ東京01、人種保全型AI”GENE”の祝福を受けたあなた。ようこそ。眠るような生の終わりを私達は保証いたします』
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