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GENE
ーーそもそもの発端はなんだっただろうか。
僕はあの運の悪い日のことを思い出していた。
7月30日は機械化されて気候の変化を受けにくいネオ東京01でも特に暑い日だった。待ち合わせ時間ピッタリに喫茶店に着いた僕は、挨拶もそこそこに手のひらサイズのケースを目の前の夫婦に渡す。
「はじめまして。こちらが今回お約束のものになります」
受け渡しの物についての説明と、今後のサポートもこの社会を構成するAIの一つである”GENE”から受けられることを伝えた。先方のデバイスに居るナビサポーター、Saoriに情報保管がされていることを確認すると、残る仕事は後一つだけとなる。
目の前の男は若干緊張した面持ちで僕を見る。当然だ。彼らに渡したのは実際僕の情報そのものなのだから。僕の見た目も、学力も、体力も人より優れているわけではないが、何一つ劣ったところがないのが長所だと思っている。
「本当に面会してくださるなんて思いもよりませんでした」
「古き社会ではネットで簡単に購入出来ましたからね。僕も初めはそうしてました。ただ、小銭稼ぎ目的に思われたり、不正利用されるリスクがあったりと面倒なことも多いので、現在は必ずこうして彼女の”診断”後、面会させていただくことにしています」
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