こねことぼくと、かえり道の奇奇怪々

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「どどどどどどどうしよう、ぼく、急いで帰らなくちゃ」  ぼくはもう、早く帰らなきゃ、しか考えられなくなってきた。だってここは、人間の町じゃない。あやかしの町だ。 「落ち着けよミチル。約束したとおり、ちゃんと公園まで送ってってやるから」  タエちゃんがぼくの手をぎゅ、っとにぎってくれる。  その手は、初めて会ってグータッチしたときと変わらずあたたかかった。でも、その腕やひざには、ぼくのせいでケガをして血がにじんでいる。 「でもタエちゃん、ケガはちゃんと手あてしないと」  ぼくは、ぐるぐるした頭でそう言った。  だって、ケガはいたいし、いたいのはこわい。 「だ、か、ら! さっきからオマエ、ずっとテンパったままなんだぞ! こわいならまずここを出なきゃ!」  タエちゃんは、まるでねこが毛を逆立てるような勢いでぼくをしかる。 「でもタエちゃん、ケガをほうっておくと、し、死んじゃうこともあるんだよ…!」  ぼくがタエちゃんの両手をにぎり返しながら言うと、タエちゃんは 「こんなケガで死んでたまるかっ!」  と叫ぶとぼくの手をぺいっとふり払った。 「こんなの、なめときゃ治る!」  そう言ったかと思うと、タエちゃんはボンっと煙をあげてねこの姿に化けた。  そうして、ケガしたところをなめようとする。その姿が、昔助けてあげたかったのに助けてあげられなかった白い子ねこと重なった。 「そんなわけないでしょ! バイ菌入っちゃうよ!」  ぼくはあわててねこの姿のタエちゃんを抱きあげると、ある場所をめざして走りだした。  ここが鏡写しの町なら、あの角を曲がったところにコンビニがあるはずだ。  そこなら、ぼくでも手あてするのに必要なものが買えるはず。今日のぼくはポケットにお金が入っているし。 「おっ、おい! ミチル! どこ行くんだ!」 「あやかしの町でも、コンビニはぼくたちの町のコンビニといっしょ?」  ぼくは走りながらタエちゃんに確認する。 「前に母さんと狩威町のコンビニに行ったときは、だいたい同じだと思ったけど…」  それを聞いて、ぼくはうなずく。  角を曲がって、コンビニに入った。ねこを抱いたまま入るなんて、人間の世界ではちょっと考えられない。でも、のぼくんちから出てきた毛むくじゃらのひとを思い出すに、あやかしの世界ならきっと大丈夫だろう。 「あった! こっちの字は読めないけど、これ、消毒液とばんそうこうだよね?」  商品棚を指さして、タエちゃんに確認する。 「そうだけど…ミチル、お金もってるのか?」  タエちゃんが声をひそめた。 「あたし、お金持ってないんだぞ…」 「足りるかわかんないけど、消毒液だけでも買えれば…」  そう言って、ぼくは消毒液とばんそうこうを持ってレジへ向かう。  レジには、金髪で褐色肌の外国人が立っていた。  ……外国人、でいいのかな? 「ねぇタエちゃん、あの店員さん、耳がとんがってて、ゲームで見るエルフみたいだけど……」 「そうだぞ、技能実習生で外国からきてるエルフだ」  本当にエルフだった!  すこし緊張しながらカウンターに商品を置くと、エルフのお姉さんはにっこり笑ってくれた。 「イラッシャイマセー。コチラの商品デよろしかったデショウカー?」  ところどころなまってる発音は、ぼくんちの近くのコンビニで働いている、外国からきた店員さんと似ている。 「あの、このお金、足りますか?」  ぼくはポケットに入っていた千円札をコイントレーに乗せた。エルフのお姉さんは、千円札を手にとって、裏や表に返してじっと見る。 「コレ、人間のお金デスカ?」 「あっ、はい……」  しまった、と思った。  人間だとバレたらマズイとかだったらどうしよう。  背中を汗が流れるのを感じる。 「ンー、ごめんなサイ。この店、人間のお金ハ使えナイネ…天狗ペイは持ってナイデスカ?」  エルフのお姉さんは、千円札をぼくの方へ返しながらにこりと笑う。 「て、天狗ペイ?」 「ハイ、電子マネーでス!」 「た、タエちゃん持ってたり……」  慌てて腕のなかのタエちゃんに確認すると、タエちゃんは首を横に振った。 「現金も電子マネーも持ってないんだぞ」 「えええぇ……」  ぼくは途方にくれた。 「お金がナイと売ってあげられないデスネ。お家のヒト、呼んデクルとイイヨ!」  エルフのお姉さんはいやな顔ひとつせず送り出してくれたけど、これじゃあ、タエちゃんの傷の手あてができない。
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