こねことぼくと、かえり道の奇奇怪々

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 コンビニを出たぼくは、とぼとぼと歩きはじめる。  ぼくのせいだから、ぼくが何とかしなくちゃいけないのに。結局、ぼくの力じゃなんにもできない。 「いてて…」  タエちゃんが、腕のなかで小さく声をあげた。 「だいじょうぶ?」 「だ、だいじょうぶなんだぞ!」  タエちゃんは元気そうな声で返事をしてくれたけど、おろせとは言わなくなったし、やっぱりケガが痛いんだろう。  どうしよう、と考えながら角を曲がると、見なれた交番が見えた。そうだった。狩威町でも、コンビニの近くには交番がある。それならこっちにもあるはずだ。  ぼくが子ねこにかまれてしまったときも、交番のおまわりさんがパトロールしてて、助けてくれた。  コンビニの外国人店員さんがいるぐらいだから、あやかしの町でも交番にはおまわりさんがいるはずだ。 「タエちゃん、おまわりさんなら、きっとぼくが人間でも助けてくれるよね?」  ぼくの言葉に、タエちゃんは「でも」と言った。 「コンビニのエルフとちがって、あやかしの警察官は、たぶん人間からすると見た目がこわいと思うぞ?」  たしかに、エルフのお姉さんは人間じゃない、っていうよりも外国人っていう感じが強かったから、こわくなかった。 「さっきの家にいた一つ目みたいなやつ、ミチルはこわいだろ?」  タエちゃんの言葉に、ぼくは思わず交番へ向かう足を止めそうになった。  たしかに、いかにも妖怪です、って見た目だと、こわい。またパニックになってしまうかもしれない。  でも、こわいなんて言ってられない。  ぼくは意を決して、交番まで走った。またおじけづいてしまわないうちに! 「あのっ、すみません!」  声をかけると、交番の奥からひとが…いや、人型だけど、馬の頭をして制服を着たおまわりさんが出てきた。ハロウィンの時期によくいる馬のかぶりものをした男の人だと思えば……いや、めちゃくちゃリアルに馬だ! 「おや、人の子だ。どうしたんだい」  馬のおまわりさんは、大きくてリアルな見た目に反してやさしい声で応対してくれる。その声色のあたたかさは、あの時ぼくを助けてくれたおまわりさんとよく似ていた。  やっぱり、おまわりさんなら、あやかしでも人間のぼくを助けてくれるかも……! 「あのっ、とも、友だちが、ぼくのせいでケガしちゃって、手あてしたいけど、ぼくじゃなんにもできなくて」  ところどころつっかえながらも必死なぼくの言葉を、おまわりさんはウンウンとうなずきながら聞いてくれた。ぼくは話しながら鼻の奥がツンとするのをこらえる。 「どれどれ。あらら、これは痛いね」  おまわりさんはぼくが抱きあげているタエちゃんをのぞきこんで言うと、交番のなかにぼくたちを手まねきした。そしてイスを引いてぼくを座らせると、奥から救急箱を持ってきてくれる。 「さ、お友だちをここへ」  おまわりさんが、机の上にざぶとんと防水シートを敷いてポンと叩いた。  ぼくがタエちゃんをそっとそこへおろすと、タエちゃんは鼻をスンスンさせる。 「大丈夫、最近の消毒液はあんまりシミないから」  陽気に告げて、おまわりさんはタエちゃんの傷を手あてしはじめた。手なれた様子で、汚れを落とし、消毒して、傷パッドをあてて包帯を巻く。 「包帯なんか巻いて、大げさなんだぞ…」  タエちゃんが居心地悪そうにつぶやくと、おまわりさんは笑った。 「人型に化ければばんそうこうでいいんだけどね。そんな元気はもうないだろう」  タエちゃんは「ちぇ」と言って、ざぶとんの盛り上がったところにあごを乗せて横になった。 「タエちゃん、だいじょうぶ? 痛くない?」  ぼくが声をかけると、タエちゃんは耳をぴくっとさせて「なんともない」と言う。 「きみも、がんばったね」  おまわりさんが救急箱をしまいながら、ぼくに向かって笑いかけてくれた。  そのとたん、ぼくは肩から力が抜けたような気持ちになる。  一年生のときは、ケガした子ねこを助けられなくて、噛まれて、情けなくてさんざんだったけど。  今回は、ぼく一人じゃどうにもならなかったけど、ちゃんと、手あてしてあげられた。 「よかったぁ……」  ぼくは、泣きそうになるのをこらえて座っていたイスの背もたれに体をあずける。ずっと気を張っていたからか、体のあちこちがバキバキに固まっている感覚だ。 「ここで少し待っておいで」  おまわりさんは、ぼくにそう言うとタエちゃんへ目線をよこし、救急箱を手に奥へ戻った。そして、中でなにかカチャカチャと準備をはじめる。 「なあ、ミチル」  タエちゃんがざぶとんのうえで座りなおしてぼくを呼んだ。
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